逆境でのIoTサービス実証実験、実りと学びを地域DXに活かす(釧路市IoT推進ラボ)
公開日:
2023年3月23日(木)
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釧路湿原や塘路湖、阿寒湖といった絶景エリアに恵まれたひがし北海道の釧路地域は、国内外の観光客に非常に人気であることから、観光業が大きな経済の柱の1つとなっています。しかしコロナ禍では渡航や移動の制限などにより全国的に観光客が激減。順調に伸びていたインバウンド需要も大きく落ち込むことになりました。
現在は、世界中で新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、感染状況もだんだん落ち着いてきていることから、国内各地の観光地にも観光客が少しずつ戻って来ています。釧路市でも、アフターコロナに向けて観光に関するさまざまな事業展開を計画しています。
釧路ITクラスター推進協会や地元企業、教育機関、産業支援機関などで構成する釧路市IoT推進ラボでは、「観光とIoT」というテーマでのシステムの研究開発や実証試験などを行いながら、釧路地域における地域課題解消やビジネス創出を目指しています。
現在は、「中小企業IoTスモールスタートモデル形成事業」として、市内の事業所などでのIoTシステム導入を支援し、課題解決による業務改善、生産性向上・競争力強化などを図っています。
今後の観光客の戻りに期待がかかる「Jorge」
これまで「くしろ観光案内チャットボット『Jorge』」によるサービス開発や、LPWA(低消費電力広域:Low Power Wide Area)通信を用いた釧路市内の次世代通信インフラ整備などに取り組んできました。
Jorgeは、データベース化してある観光情報と、スマートフォンのGPSから取得する利用者の位置情報を組み合わせて、問い合わせに自動返答するシステムで、釧路市を含む同管内8市町村が連携してサービスを提供しています。観光客の情報収集を支援するだけではなく、チャットボットのサービスで収集したデータを蓄積して地域の観光事業のマーケティングなどに役立てようとしています。
2022年中も釧路地域で継続して運用し、2021年には準備段階であったクーポン配布サービスも2022年7月から実験的にスタートさせています。対象店舗は飲食店が中心になっています。
釧路市IoT推進ラボ代表の中島秀幸氏は、「そこで行われるチャット履歴や、訪れた店舗の情報を取得しています。また、より詳細な観光客の情報が集められるようになったので、さらなる観光戦略に生かしていきたいと考えています」と、Jorgeでの取り組みの現状や今後について述べています。
今後は、Jorgeを利用して地域に存在するさまざまな観光ビッグデータを引き続き収集して一元化し、そのデータを地域で活用することが、地域の観光産業にとって大きなメリットになります。今後は、それぞれのデータを個別に把握するだけでなく、クロス分析やAIの活用などの手法を用いて見える化を図っていきたいということです。
しかしながら、2022年はまだ観光客の戻り具合が不十分であったこともあり、利用率が思うように上がらなかったとのこと。活発に使用されないことにはデータベースが育たないため、2023年は感染状況の改善により観光需要の回復と集客に期待がかかるといいます。
まだ始まったばかりの取り組みであるため、「地域の中でもまだ認知が十分でないことから、PRをどうしていくかも大きな課題になっている」(中島氏)ということです。
アクションの1つとしては、「まずはインターネット等を活用した情報発信に力を入れていくこと」を考えていると中島氏は言います。「空港やバス乗り場、観光スポットにポスターは張り出しているのですが、だいぶ時間がたっており、そろそろ新しいポスターを作り直すことも考えている」ということでした。
さらに、Jorgeの認知度向上のために、行政の観光部門や観光協会らとの連携をさらに密にして、Jorgeのことを広く知ってもらえるようにする機会や活動を増やしていくということです。
LPWAシステムの児童見守りサービス、厳しい展開へ
LPWA通信を用いた、釧路市内の次世代通信インフラ整備プロジェクトでは、2021年にはソニーのLPWAシステム「ELTRS」を用いた地域内の「児童見守りサービス」の開発を進めました。ELTRSの通信を利用して児童のランドセルに付けた端末から取得するデータをクラウド上で収集し、保護者がリアルタイムで児童の位置情報を把握できるというサービスです。釧路市内の小学校で大規模な実証実験を実施してきました。
「2022年に入ってから同様の児童見守りサービスが増えてきて、現状の機能のままでは市場での競争が厳しいと考えて、少しでも既存サービスとの差別化を図るため新しい機能を実装することにしました」(中島氏)。
広く平坦な釧路市を活かしたLPWAシステムで、低コストなサービスを提供しようと取り組んできたプロジェクトはありましたが、特にこの間で出てきた競合サービスが軒並み低コストであると中島氏は言います。そのため、「低コスト」以外の訴求ポイントを、急遽新たに検討する必要が出てきたのです。
このような背景から、2022年には、見守りの機能の他、保護者と学校間の連絡帳機能を実装しました。改良したサービスについては、2022年10月に開催された「CEATEC 2022」のIPAブースで紹介し、PRを行いました。
全国に向けて製品としてのリリースを目指してきましたが、2023年1月、製品化の断念を決定しました。連携先企業が事業中止の決断をしたことが大きいそうです。
「事業としてはうまくいきませんでしたが、これまでの取り組みや挑戦を次にしっかりと活かしていくことが一番大事だと思っています」(中島氏)。中島氏は、大手支援企業に依存しすぎずにプロジェクトを進めていくことが大事であることを痛感したそうです。LPWAを活用した児童見守りサービスは中止となりましたが、今後は、災害対策関連のサービスなどの開発を検討しているとのことです。
今後、釧路市IoT推進ラボは、「地域DX推進ラボ」への移行に向け、地域全体でのDXを広めていくため、これまで注力してきた観光関連以外にも、中小企業を支援する取り組みも積極的に進めていくといいます。
その一つとして、今年度の経済産業省の「ふるさとCo-LEADプログラム」に全国3ラボの1つとして選定され、地域企業と首都圏等の高度デジタル人材、さらには地元ベンダーも協業した形での「地域DX」を進めています。今回の実績をモデルケースとして、来年度も地域企業のDX化支援に力を入れていきたいとのことです。
現在は、世界中で新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、感染状況もだんだん落ち着いてきていることから、国内各地の観光地にも観光客が少しずつ戻って来ています。釧路市でも、アフターコロナに向けて観光に関するさまざまな事業展開を計画しています。
釧路ITクラスター推進協会や地元企業、教育機関、産業支援機関などで構成する釧路市IoT推進ラボでは、「観光とIoT」というテーマでのシステムの研究開発や実証試験などを行いながら、釧路地域における地域課題解消やビジネス創出を目指しています。
現在は、「中小企業IoTスモールスタートモデル形成事業」として、市内の事業所などでのIoTシステム導入を支援し、課題解決による業務改善、生産性向上・競争力強化などを図っています。
今後の観光客の戻りに期待がかかる「Jorge」
これまで「くしろ観光案内チャットボット『Jorge』」によるサービス開発や、LPWA(低消費電力広域:Low Power Wide Area)通信を用いた釧路市内の次世代通信インフラ整備などに取り組んできました。
Jorgeは、データベース化してある観光情報と、スマートフォンのGPSから取得する利用者の位置情報を組み合わせて、問い合わせに自動返答するシステムで、釧路市を含む同管内8市町村が連携してサービスを提供しています。観光客の情報収集を支援するだけではなく、チャットボットのサービスで収集したデータを蓄積して地域の観光事業のマーケティングなどに役立てようとしています。
2022年中も釧路地域で継続して運用し、2021年には準備段階であったクーポン配布サービスも2022年7月から実験的にスタートさせています。対象店舗は飲食店が中心になっています。
釧路市IoT推進ラボ代表の中島秀幸氏は、「そこで行われるチャット履歴や、訪れた店舗の情報を取得しています。また、より詳細な観光客の情報が集められるようになったので、さらなる観光戦略に生かしていきたいと考えています」と、Jorgeでの取り組みの現状や今後について述べています。
今後は、Jorgeを利用して地域に存在するさまざまな観光ビッグデータを引き続き収集して一元化し、そのデータを地域で活用することが、地域の観光産業にとって大きなメリットになります。今後は、それぞれのデータを個別に把握するだけでなく、クロス分析やAIの活用などの手法を用いて見える化を図っていきたいということです。
しかしながら、2022年はまだ観光客の戻り具合が不十分であったこともあり、利用率が思うように上がらなかったとのこと。活発に使用されないことにはデータベースが育たないため、2023年は感染状況の改善により観光需要の回復と集客に期待がかかるといいます。
まだ始まったばかりの取り組みであるため、「地域の中でもまだ認知が十分でないことから、PRをどうしていくかも大きな課題になっている」(中島氏)ということです。
アクションの1つとしては、「まずはインターネット等を活用した情報発信に力を入れていくこと」を考えていると中島氏は言います。「空港やバス乗り場、観光スポットにポスターは張り出しているのですが、だいぶ時間がたっており、そろそろ新しいポスターを作り直すことも考えている」ということでした。
さらに、Jorgeの認知度向上のために、行政の観光部門や観光協会らとの連携をさらに密にして、Jorgeのことを広く知ってもらえるようにする機会や活動を増やしていくということです。
LPWAシステムの児童見守りサービス、厳しい展開へ
LPWA通信を用いた、釧路市内の次世代通信インフラ整備プロジェクトでは、2021年にはソニーのLPWAシステム「ELTRS」を用いた地域内の「児童見守りサービス」の開発を進めました。ELTRSの通信を利用して児童のランドセルに付けた端末から取得するデータをクラウド上で収集し、保護者がリアルタイムで児童の位置情報を把握できるというサービスです。釧路市内の小学校で大規模な実証実験を実施してきました。
「2022年に入ってから同様の児童見守りサービスが増えてきて、現状の機能のままでは市場での競争が厳しいと考えて、少しでも既存サービスとの差別化を図るため新しい機能を実装することにしました」(中島氏)。
広く平坦な釧路市を活かしたLPWAシステムで、低コストなサービスを提供しようと取り組んできたプロジェクトはありましたが、特にこの間で出てきた競合サービスが軒並み低コストであると中島氏は言います。そのため、「低コスト」以外の訴求ポイントを、急遽新たに検討する必要が出てきたのです。
このような背景から、2022年には、見守りの機能の他、保護者と学校間の連絡帳機能を実装しました。改良したサービスについては、2022年10月に開催された「CEATEC 2022」のIPAブースで紹介し、PRを行いました。
全国に向けて製品としてのリリースを目指してきましたが、2023年1月、製品化の断念を決定しました。連携先企業が事業中止の決断をしたことが大きいそうです。
「事業としてはうまくいきませんでしたが、これまでの取り組みや挑戦を次にしっかりと活かしていくことが一番大事だと思っています」(中島氏)。中島氏は、大手支援企業に依存しすぎずにプロジェクトを進めていくことが大事であることを痛感したそうです。LPWAを活用した児童見守りサービスは中止となりましたが、今後は、災害対策関連のサービスなどの開発を検討しているとのことです。
今後、釧路市IoT推進ラボは、「地域DX推進ラボ」への移行に向け、地域全体でのDXを広めていくため、これまで注力してきた観光関連以外にも、中小企業を支援する取り組みも積極的に進めていくといいます。
その一つとして、今年度の経済産業省の「ふるさとCo-LEADプログラム」に全国3ラボの1つとして選定され、地域企業と首都圏等の高度デジタル人材、さらには地元ベンダーも協業した形での「地域DX」を進めています。今回の実績をモデルケースとして、来年度も地域企業のDX化支援に力を入れていきたいとのことです。