釧路平野に通信網を作り、データ活用で地域を活性化する
公開日:
2022年3月30日(水)
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釧路湿原や阿寒摩周の二つの国立公園をはじめ、日本有数といわれる絶景エリアに恵まれた北海道の釧路地域では、多くの観光客が訪れており、特に近年は訪日外国人観光客からの人気も高まっています。ここのところでは、やはりコロナ禍の影響で観光客の数は減っているとのことですが、今後、コロナ問題が収束に向かうにつれ、再び観光客が戻ってきて、増加してくると見られます。そのような中、釧路市では、観光業を新たな産業として取り組みを行っております。
釧路市IoT推進ラボは、釧路市が強みとしてきた観光産業とIoTを融合させ、地域課題の解決やビジネス創出を目指して、実証実験や事業化に取り組んでいます。ラボの取り組みは、釧路IT クラスター推進協会や、地元IT企業、地元観光関連業界関係の他、釧路工業高等専門学校や釧路公立大学といった教育機関、釧路商工会議所、釧路工業技術センターと多岐にわたる組織や機関が協力し合いながら進められています。
釧路市IoT推進ラボは、「くしろ観光案内高度化事業」の支援の一環として、AI機能を搭載した「くしろ観光案内チャットボット『Jorge』」のサービスの開発と提供を行っています。このサービスは2021年1月からリリースし、釧路地域内で実際に使われています。
「観光で釧路市を訪れている人が求めている情報を、24時間・365日で、しっかり届けていける仕組みを作れないだろうかと模索しました」と同ラボの代表を務める中島秀幸氏は、その目的について述べています。
Jorgeの運用にあたっては、釧路市を含む、同管内8市町村での導入となりました。「このように複数の市町村が協力し合って1つのチャットボットの事業を立ち上げたケースはこれまでにはなかったはずで、これは日本初のサービスではないかと」(中島氏)。そして、せっかく苦労して立ち上げても、長く継続することも必要です。その点についても、8市町村が加盟する釧路観光連盟で長期的に予算を立てて、運営しています。
今、コロナの影響で観光客の数が落ち込んでいる釧路地域ですが、「サービスをブラッシュアップしたり、データ充実化を図ったりするためのよい機会」と前向きにとらえ、日々改良に取り組んでいるということです。今は、Jorgeと連携したクーポンのサービスなどを開発中です。
もう1つ取り組んでいるのが、釧路市内の次世代通信インフラ整備です。釧路市内の各所から集めてくるデータを収集して利用し、観光客の動線分析、スマートメーターへの活用、野生動物監視などといった運用を目指しています。
同ラボでは、インフラ通信網について、導入コストなどの観点から、LPWA(低消費電力広域:Low Power Wide Area)通信に注目。しかし地場の企業だけでは開発や実装が難しく、道外の大手企業の技術やサービスの採用を模索しました。その中で、ソニーのLPWAシステム「ELTRES」の採用を決定しています。
「ELTRESは、他の技術と比較すると電波の届く範囲が広いため 、旧釧路市の市街地全体を、少ない基地局数でカバー可能であり、低コストで運用できると考えました」と中島氏。旧釧路市は約222平方キロメートルという行政面積のうち、その多くが平地であり、かつ太平洋に面しています。市街地にも山や坂がほとんどなく、電波を遮るものが少ないことも、その導入のメリットであると同氏は説明します。
ELTRESによる通信を用いて、地域内の児童のための「見守りサービス」を開発。児童に小さなGPS端末を持たせて、保護者らが遠隔で見守りができるシステムです。スマートフォンの持ち込みが禁止されている学校などにも適用可能であるということです。釧路市教育委員会の協力により実証試験を行いながらシステムの改善に取り組み、2022年上期から、釧路地域だけではなく、日本全国に向けて製品としてのリリースを目指します。サービス提供価格は、スマートフォンと携帯電話網を利用する既存サービスと競えるほど安価に抑えられるということです。
今後は、この児童見守りサービスを釧路市および近隣自治体でも運用していく 仕組みづくりをしていく計画です。またこの仕組みを応用した高齢者の見守りサービスの提供なども検討しています。
「ラボを立ち上げて実証実験を重ねながら試行錯誤を繰り返し、5年目でようやくサービスの社会実装が実現しました」と中島氏は、そこへ行きつくために、さまざまな調査や、セミナーや勉強会などを重ねたといいます。「観光が主産業である市外の地域における取り組みについても、視察や調査、学習などを行いました」
釧路市が抱える地域課題を抽出するにあたり、同ラボではハッカソンやアイデアソンを企画・開催。若い人から高齢者まで、観光業に直接かかわらない人や、観光や出張で釧路市に一時的に訪れている人なども含めて、多種多様な人を議論の場に集めることで、既成概念や過去の取り組みに囚われない意見やアイデアを集め、具体的な問題抽出などを行ってきました。AIチャットボットや見守りサービスのアイデアもそこから生まれたといいます。
釧路市IoT推進ラボは、研究機関や自治体関係者ではなく、釧路市内でIT企業の役員である中島氏が代表を務めてリードしていることも1つの特色になっています。中島氏自身も、生まれも育ちも釧路です。釧路の地域課題も理解し、ITの社会実装の経験も豊富な同氏が、各所を客観的に見渡し、自身が育ててきた人的ネットワークも活用しつつ、プロジェクトを取りまとめているということです。さまざまな立場の関係者を巻き込み、ITサービスの社会実装を成功させるためには、リーダーをどういう人に任せるかも成功のカギと言えそうです。
釧路市IoT推進ラボは、釧路市が強みとしてきた観光産業とIoTを融合させ、地域課題の解決やビジネス創出を目指して、実証実験や事業化に取り組んでいます。ラボの取り組みは、釧路IT クラスター推進協会や、地元IT企業、地元観光関連業界関係の他、釧路工業高等専門学校や釧路公立大学といった教育機関、釧路商工会議所、釧路工業技術センターと多岐にわたる組織や機関が協力し合いながら進められています。
釧路市に通信網を作って、データを集めて、つなげて、活用する
釧路市IoT推進ラボは、「くしろ観光案内高度化事業」の支援の一環として、AI機能を搭載した「くしろ観光案内チャットボット『Jorge』」のサービスの開発と提供を行っています。このサービスは2021年1月からリリースし、釧路地域内で実際に使われています。
くしろ観光案内チャットボット『Jorge』
観光情報はホームページなどの媒体を通じて提供するのが一般的ですが、この取り組みでは、スマートフォンを経由して、データベース化した観光情報や利用者の位置情報に基づき、問い合わせに自動返答するシステムを構築しました。このシステムは、外国人観光客のことも考えて英語と中国語の翻訳にも対応しています。「観光で釧路市を訪れている人が求めている情報を、24時間・365日で、しっかり届けていける仕組みを作れないだろうかと模索しました」と同ラボの代表を務める中島秀幸氏は、その目的について述べています。
Jorgeの運用にあたっては、釧路市を含む、同管内8市町村での導入となりました。「このように複数の市町村が協力し合って1つのチャットボットの事業を立ち上げたケースはこれまでにはなかったはずで、これは日本初のサービスではないかと」(中島氏)。そして、せっかく苦労して立ち上げても、長く継続することも必要です。その点についても、8市町村が加盟する釧路観光連盟で長期的に予算を立てて、運営しています。
今、コロナの影響で観光客の数が落ち込んでいる釧路地域ですが、「サービスをブラッシュアップしたり、データ充実化を図ったりするためのよい機会」と前向きにとらえ、日々改良に取り組んでいるということです。今は、Jorgeと連携したクーポンのサービスなどを開発中です。
チャットボットのイメージ
今後は、AIチャットボット運用を通じてデータ収集を行い、それを基に地域の顧客管理の要素を持つプラットフォームを作り上げていく予定で、それを地域の観光戦略に生かしたいということです。 もう1つ取り組んでいるのが、釧路市内の次世代通信インフラ整備です。釧路市内の各所から集めてくるデータを収集して利用し、観光客の動線分析、スマートメーターへの活用、野生動物監視などといった運用を目指しています。
同ラボでは、インフラ通信網について、導入コストなどの観点から、LPWA(低消費電力広域:Low Power Wide Area)通信に注目。しかし地場の企業だけでは開発や実装が難しく、道外の大手企業の技術やサービスの採用を模索しました。その中で、ソニーのLPWAシステム「ELTRES」の採用を決定しています。
「ELTRESは、他の技術と比較すると電波の届く範囲が広いため 、旧釧路市の市街地全体を、少ない基地局数でカバー可能であり、低コストで運用できると考えました」と中島氏。旧釧路市は約222平方キロメートルという行政面積のうち、その多くが平地であり、かつ太平洋に面しています。市街地にも山や坂がほとんどなく、電波を遮るものが少ないことも、その導入のメリットであると同氏は説明します。
ELTRESによる通信を用いて、地域内の児童のための「見守りサービス」を開発。児童に小さなGPS端末を持たせて、保護者らが遠隔で見守りができるシステムです。スマートフォンの持ち込みが禁止されている学校などにも適用可能であるということです。釧路市教育委員会の協力により実証試験を行いながらシステムの改善に取り組み、2022年上期から、釧路地域だけではなく、日本全国に向けて製品としてのリリースを目指します。サービス提供価格は、スマートフォンと携帯電話網を利用する既存サービスと競えるほど安価に抑えられるということです。
今後は、この児童見守りサービスを釧路市および近隣自治体でも運用していく 仕組みづくりをしていく計画です。またこの仕組みを応用した高齢者の見守りサービスの提供なども検討しています。
思い込みと地域に囚われずにプロジェクトを進めること
「ラボを立ち上げて実証実験を重ねながら試行錯誤を繰り返し、5年目でようやくサービスの社会実装が実現しました」と中島氏は、そこへ行きつくために、さまざまな調査や、セミナーや勉強会などを重ねたといいます。「観光が主産業である市外の地域における取り組みについても、視察や調査、学習などを行いました」
釧路市が抱える地域課題を抽出するにあたり、同ラボではハッカソンやアイデアソンを企画・開催。若い人から高齢者まで、観光業に直接かかわらない人や、観光や出張で釧路市に一時的に訪れている人なども含めて、多種多様な人を議論の場に集めることで、既成概念や過去の取り組みに囚われない意見やアイデアを集め、具体的な問題抽出などを行ってきました。AIチャットボットや見守りサービスのアイデアもそこから生まれたといいます。
釧路市IoT推進ラボは、研究機関や自治体関係者ではなく、釧路市内でIT企業の役員である中島氏が代表を務めてリードしていることも1つの特色になっています。中島氏自身も、生まれも育ちも釧路です。釧路の地域課題も理解し、ITの社会実装の経験も豊富な同氏が、各所を客観的に見渡し、自身が育ててきた人的ネットワークも活用しつつ、プロジェクトを取りまとめているということです。さまざまな立場の関係者を巻き込み、ITサービスの社会実装を成功させるためには、リーダーをどういう人に任せるかも成功のカギと言えそうです。