地域人材インタビュー2024 ~ 園部氏(埼玉県)

――埼玉県DX推進支援ネットワーク
埼玉県DX推進支援ネットワーク
DXコンシェルジュ 園部 惠子 氏
埼玉県DX推進支援ネットワークは、埼玉県内の中小企業に向けたDX推進支援を行っています。主となる活動は、デジタル化やDX推進に向けた相談とITベンダーとのマッチング、セミナーやイベントの開催、および取組事例の紹介などです。
国・県・市、経済団体、金融機関、支援機関などさまざまな分野の27団体が連携し合って、各企業の事情や課題に応じた支援を実施しています。
この活動の意義について、同ネットワークの園部恵子氏はこのように話します。「埼玉県のみならず、国内中小企業においてDXへの取り組みは喫緊の課題であり、今後の事業の健全な維持や、継続的成長に向けて絶対に避けて通れない道です。しかし、現状の中小にとって自律的にDXに取り組んでいくことは難しく、このような行政の支援には大きな意義があると考えています」。園部氏はDX専門相談員である「DXコンシェルジュ」として、企業の相談に対して、DXパートナー(ITベンダーやIT企業など)の紹介やマッチングを行っています。

前職のIT企業では、全社的な改善/革新活動の推進役を担っていた園部氏は、その当時にこのようなことを考えていたと言います。「この活動は、デジタル技術を基盤とした人づくり、風土づくり、変化に適合し成長する強い企業体質づくりを目的としたものでした。私は、これが企業の競争力の源泉であると考えています」
当時の推進活動でうれしかったのは、「現場の中でデジタルが導入され、業務の可視化や情報共有がなされていき、現場の中で自発的に改革や改善に取り組む人たちが出てきたこと」であると言います。「それにより一人一人が担う仕事の質が変わり、一人一人の価値がより高まり、生き生きとした現場になっていったのを実感しました。このような現場力はまさに『企業の筋力』のようなもので、一朝一夕には獲得できない基礎体力であり、それが継続して成長していける会社の本質的な強さになるのだと思っています」
DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、「X(Transformation)」が示すように、IT化やデジタル化を行うことそのものや、業務効率化や生産性向上など「現状の改善」にとどまらず、さらなるその先への成長に向けた「変革」がなされるべきとする概念です。
「国内の中小企業においては、少子高齢化による働き手不足や技術継承への対応の他、アメリカの関税問題、自動車業界の経営統合、新技術の登場など、世の中の変化への対応も考えていかなければなりません。そうしたことを乗り越えるにはDXによる変革は必須です。そのための埼玉県の強い企業づくりや人づくりを支援したいと思って、DXコンシェルジュをやってみようと思いました」
園部氏が日々、企業を回っていると、それぞれの現場の雰囲気の違いを感じるそうです。「成功事例として紹介させていただくような企業は、総じて現場の人たちの表情が明るく、元気な挨拶が飛び交っています。また、皆が会社の経営課題や目指すべき目標を意識しており、自身の仕事を通じてその解決や達成に貢献しようとしています。逆に、なかなかDXに取り組んでいけない企業では、やはり何だか、現場が暗い雰囲気で、経営者と現場に壁があり、従業員は、自分たちが同じ作業を繰り返す単なる機械や部品であるかのような印象で働いています」。そのような中小企業DXの意義を伝え変革をもたらしたいと、園部氏らDXコンシェルジュたちは奔走しています。

ネットワーク構成機関や各業種の組合や団体と日々連携して支援に取り組みながら、広報活動を続けるうちに、埼玉県DX推進支援ネットワークの活動は、「ここのところで県内での認知度がだいぶ高まってきました」と園部氏は言います。支援の裾野の広がりも実感しているそうです。
「それと同時に、徐々に相談件数が増加しています。私たちが実践的な支援として力を入れてきたITベンダーと県内中小企業のマッチング「DXパートナーマッチング支援」の利用件数も増えています」。これまでの支援利用企業数は約230社(2022年7月~2025年1月)、ITベンダーとのマッチングを行った企業数は約100社(同期間)に上ります。
2023年度から開始した「埼玉DX大賞」においても、「受賞企業だけではなく申し込み企業を含めて、お手本とすべき県内中小企業が多数出てきています。これも大きな成果です」と園部氏は述べます。受賞企業自身もPRになることと併せ、「受賞事例により、他の企業も自社が具体的に目指すべきDXの状態が描きやすくなり、県内中小企業のDX自体(特にX)への理解も深まってきていると感じます」
2024年度に実施された『第2回 埼玉DX大賞』では、山本工機株式会社が最優秀賞を受賞。同社について、園部氏は「中小製造業のDXにおけるロールモデル的事例。DXで、従業員が働きやすく、多様性ある会社を実現しています」と言います。「先代から引き継いだ事業がなかなかうまくいかず、従業員の方々にも残業の増加など負担がかかっていました。生産システムなどを導入して業務を効率化するとともに、多言語化対応した現場にして技能実習生を受け入れることで人手不足に対処しました」。第2回 埼玉DX大賞ではこの最優秀賞の他、VRなどを活用し各店舗に革新的な技術教育を行っている美容室経営の株式会社レボルやデジタル投資を行い生産性向上や社会課題解決を進める鶴見製紙株式会社、生成AIを積極的に活用しているニッシン・パーテクチュアル株式会社が優秀賞を受賞しました。
さらに、2024年度は、「埼玉DXファーストステップ企業」の選考制度を新設しました。DXに向けた第一歩の取り組みを実施していて、成果が出始めうまく軌道に乗りつつある事業者が応募対象になっています。「認定企業の取り組みは、『DXといっても一体何から手を付けたらよいのか分からない』という状態の企業が大変参考になるのではと考えています」(園部氏)。
従来はデジタル化やDX推進の相談にくる企業は製造業が多く占めていました。それが最近は「建設関係や卸・小売業、介護事業など、相談に来る企業の業種が少しずつ多様化してきた」とのことです。
そのような状況になってきた最近、園部氏がDX相談を受ける際、現状のマッチングサービスの範囲ではカバーしきれないケースも出てきました。
例えば、「相談者がデジタルを活用する以前の、経営ビジョンや経営戦略が不明確である場合」「小規模な商店や個人事業などで予算が非常に少ないために、ITベンダーとのマッチングの壇上に乗せられない場合」などです。
「そのため、当ネットワークでは、2024年度より、経営課題の分析や経営戦略の策定、さらにDX計画の作成までを支援するオーダーメイド型の伴走支援や、小規模の商業・サービス業向けの支援を取り揃え、一体的に対応できるようにしました」(園部氏)
着々と成果が出ている埼玉県DX推進支援ネットワークですが、コンシェルジュの活動が始まった当初は、パートナーマッチングなどDX相談の利用が少なかったそうです。

「とにかく金融機関や経済団体などネットワーク構成団体と連携しながら周知に努めた」と園部氏は言います。 また、「埼玉県産業振興公社の『埼玉県よろず支援拠点』や、『埼玉県プロフェッショナル人材戦略拠点』、創業や知財など各種支援組織などの窓口に相談にくる企業がデジタル化やDXに関心がありそうな場合など、私どもを巻き込んでもらうようにしました。さらに、県内のものづくり関係や、電気工事、ガス、警備、介護といった各業界団体とも連携するようにしました」。さらに、セミナーを開催することで、DX相談の周知や企業のニーズの調査などを行っています。
「“攻めの姿勢”で県内の企業を支援し、活用可能なチャネルを最大限に活かして取り組んできました」(園部氏)
こうした横連携においては、「ポータルサイト上での情報の一元管理の他、関係者とのコミュニケーション機会を増やすことを心掛けています」と園部氏。支援団体が集まって状況報告や課題共有を行う会議を3カ月に1回実施しています。
来年度は、従来の支援に加えて更なる支援を充実させていくとのことです。「ローコード・ノーコードツールの需要が高まっているため、そこに比重を置いた支援について、埼玉県は令和7年度の予算要求を行っています」(園部氏)。来年度は、県内50社程度を対象に、実際にノーコードツールを使ってもらうワークショップを計画しているそうです。また「さらに接点を持つ業種や団体を増やしていきたい」ということです。
「いずれは私たちのような仲介支援が不要となり、民-民のパートナーシップなどをもとに、埼玉県の中小企業自身が“当たり前の企業活動”としてDX推進に取り組める状態を目指したいです」(園部氏)
埼玉県DX推進ネットワーク及び(公財)埼玉県産業振興公社のご利用をお待ちしております。
県内企業のデジタル化・DXを推進するため、令和3年10月に国、県、市、経済団体、金融機関、支援機関が連携し、「埼玉県DX推進支援ネットワーク」を立ち上げ、構成する27団体がワンチームとなって、中小企業のデジタル化やDXの推進を支援しています。
ポータルサイトにおいて、取組事例やセミナー、補助金等の情報を一体的に発信するとともに、DXに係る総合的な無料相談も実施しています。
https://www.saitamadx.com/
また、ポータルサイトでは、「埼玉DX大賞」に関する情報発信も行っています。
https://www.saitamadx.com/dxaward/
(埼玉県DX推進支援ネットワーク事務局)
公益財団法人埼玉県産業振興公社
経営支援部DX推進支援グループ
TEL:048-621-7051
MAIL:info@saitamadx.com