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室蘭市が元気になるシビックテックを生み出す市民団体(Code for Muroran)

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北海道中南部に位置する港湾都市である室蘭市は、明治5年に開港して以来、製鋼・製鉄業や造船業、重化学工業が盛んなものづくりの町です。「室蘭」の語源はアイヌ語の「モ・ルエラン」から転化したものであるそうで「小さな坂道の下りたところ」という意味とのことです。

北海道を代表する室蘭工業地帯は、日本有数の夜景スポットとしても有名で、工場群と白鳥大橋の灯りが作り上げるその光景は本当に幻想的です。

室蘭市IoT推進ラボでは、市民団体である「Code for Muroran」が事務局となり、地域に根ざした取り組みを行っています。室蘭市では、同市が推進してきたオープンデータの利活用や地域の自治会などにおけるデジタル化、ハッカソンの企画・開催などに取り組んでいます。

市民を巻き込んだオープンデータ活用が特色
室蘭市が取り組んでいるオープンデータ推進についてシンプルに説明するなら、「市などの行政の情報を自由に利用してください」とはっきりと宣言することです。室蘭市のWebサイトの右下には、「Creative Commons ライセンス」(※1)のCC-BYのロゴが張ってあります。

室蘭市役所 ホームページ CC-BYのロゴ

※1 Creative Commons ライセンス(CCライセンス):作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができるライセンス。https://creativecommons.jp/licenses/

一般的に、公開されているWebサイトは基本的に無料で自由に閲覧できるものである一方、Web上にある全てのページは著作権で保護されているため無断転載や無許可でのデータ利用はできません。

そこで同市では、オープンデータ(CC-BY)の宣言を公にすることで、例えばWebサイトにあるイベント情報や助成金の一覧表などを自動取得してシステムを開発するといったことを自由にしてもらえるようにしているのです。オープンデータが普及することで、市民自身がテクノロジーを使って社会や地域を解決する、いわゆる「シビックテック(Civic Tech)」の発展も期待しています。

室蘭市のオープンデータ推進のきっかけは、同市役所の地理情報システム(GIS:Geographic Information System、※2)の導入でした。平成24年度に「全庁型統合GIS」を構築し、平成25年4月から稼働しています。同市が開始した当時から自治体による市民公開のGISの取り組みが少しずつはじまっており、災害時の対応や地域の観光などのビジネスなどに生かそうとしていました。

同市役所では、市民公開のGISを構築するのではなく、業務用のGISで利用しているデータの公開を検討しました。室蘭市の職員でCode for Muroranのメンバーである川口陽海氏いわく「オープンデータの公開は、国内の自治体としては12番目らしい」ということで国内ではかなり早いタイミングだったといいます。

また「GISでそのまま読み込み可能な形式(Shape)でオープンデータを公開したのは、全国市町村で(たぶん)1番」であるそうです。

※2 地理情報システム(GIS:Geographic Information System):地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術である(出典:国土地理院)


参考情報
https://www.g-motty.net/menu/media/gs2017/g17a7.pdf

「例えば、室蘭市のWebページに掲載している子育てイベント情報を、カレンダーアプリを開発する企業が利用するなど、市民や民間が実際にデータに触れて活用する動きが着々と広まってきています」と川口氏は言います。

さて、室蘭市IoT推進ラボの事務局であるCode for Muroranなのですが、市民団体ということで、市役所による組織ではないのです。また、他の自治体のIoT推進ラボではよく見られるように、市で取り組む地元の企業振興にも直接は関わっていません。これにも理由があります

「市としてオープンデータ推進に取り組んでも、市民や民間が活用してくれないことにはなかなか進んでいきません。『市民や民間に近い立場』ということでCode for Muroranという市民団体を事務局とし、市民を巻き込んだ形での取り組みの実施や地域のデジタル化に取り組もうと考えました」(川口氏)

Code for Muroranは、室蘭市が開催したオープンデータのハッカソンの参加者であった室蘭工業大学の学生や社会人たちを中心とする地元の有志メンバーで2015年(平成27年3月)に立ちあげました。

川口氏は実際、行政側の立場ではありますが、この活動ではCode for Muroranの中で市民の一員として動き、そして行政との間をつなぐ役割を担っているとのことです。


室蘭市発のシビックテックを生み出すイベント
室蘭市のオープンデータ推進のイベントとして、特徴的なものとしては、まず2018年11月と2019年10月に開催した「宮蘭航路フェリーハッカソン」があります。室蘭市と岩手県宮古市の間を航行する宮蘭航路フェリー船内で、「宮古をもっと近くに! 10時間のフェリーをもっと楽しく!」をテーマに、往復で20時間の航行時間の間でアプリを作るハッカソンです。

宮蘭航路フェリーハッカソンの様子

このハッカソンでは「IoT推進ラボ」が技術的なアドバイスも行っています。

2019年に「最優秀賞・川崎近海汽船賞」を獲得したのが、室蘭工業大学の「うみねこパン」チームが開発した「船内脱出ゲーム~船長からの挑戦状」でした。携帯端末のWebアプリにあるクイズを、宮古市の方言や船内案内板に張り出されているヒントを基にして解答していくゲームです。船内限定で接続できるネットワークも自前で構築することで外部と遮断された閉鎖環境も使用できるようにしています。

船内脱出ゲームはその後、補助金を開発費に充て、「IoT推進ラボ」も継続したサポートをしつつ、民間企業の力を借りてブラッシュアップしていったということです。しかし残念ながら、2020年以降の新型コロナ問題の影響もあり、宮蘭航路フェリーが休船してしまい、船舶への実装には至っていないということです。

なお、うみねこパンチームの学生は2023年3月で大学院を卒業し、大手企業に就職するとのこと。このハッカソンでの開発実績も就職活動で大いに評価されていたということです。

2022年(令和4年)10月には、室蘭市が開催する「デジタル教育体験事業「Muroran FES」」に「Code for Muroran~デジタル教育体験ブース~」を出展。未就学児の子から「遊びながら楽しんで学べる」デジタル教育体験ブースです。

教育体験ブースの様子

プログラミング脳を養うツール「PETS」、室蘭工業大学が開発したVR観光体験、宮蘭航路フェリーハッカソンで生まれた船内脱出ゲームの展示、企業が教えるロボットなどを使ったプログラミング体験会などを実施しました。当日は200人くらいの参加があったということです。

室蘭市町内会デジタル化推進モデル事業としては、地域の自治会活動のデジタル化に取り組んでいます。従来、回覧板などをメインに行っていた情報伝達をスマートフォンで情報が受け取り、やりとりもできるようにLINE公式アカウントに置き換えることなどを検討しているそうです。

自治会活動の様子

共働き世帯が増えたことで、自治会活動へ積極的に参加してくれる人も減ってきています。そうしたデジタル化をすることで、自治会活動の継続を促していこうということです。現在も実施中であるこの取り組みでは、自治会の方々との意見交換を実施しながら、実情を踏まえた提案を意識しているそうです。

また2020年から取り組んでいる室蘭市MaaS(※3)プロジェクト「いってきマース」への協力も行っています。室蘭市内では、時間帯によって乗客が非常に少ない便が出てしまうといった、今日のバス運行における問題の最適化が課題となっていることから、「相乗りタクシー」の実証事業など、市内の移動手段の新たな選択肢を開発していこうと取り組んでいます。

このプロジェクトは、室蘭市と室蘭工業大学、IoT推進ラボ構成企業でもあるパナソニックITS (株)などが連携して取り組んでいるそうです。パナソニックITS (株)が「相乗りタクシー」のシステム開発を行っています。Code for Muroranでは、実証実験参加者の申し込み受付や連絡などを行うシステム構築を行いました。

※3 MaaS(Mobility as a Service):情報通信技術(ICT)を活用し、バスや鉄道、タクシーなどの公共交通を円滑につなぎ、検索・予約・決済を一括して提供するサービス。

相乗りタクシー


市民団体のデメリット
IoT推進ラボの事務局であるCode for Muroranが市民団体であるメリットがたくさんある一方、デメリットもあります。

まず、Code for Muroranはまとまった予算がある訳ではありません。限られた予算の中で、なるべく無償のソフトウェアを選ぶなど、使用できる手段に限りがあります。運営スタッフの確保もその範囲でやりくりすることになるため、人材確保や業務継続が課題ということ。そのような状況の中、IoT推進ラボ本部からのメンター派遣がしてもらえることは非常に助かっているそうです。

また、市役所の産業振興の部署が動く場合と異なり、民間企業との接点が持ちづらいという欠点もあります。その問題を解消する役割を、ハッカソンや体験会といったイベントが担おうとしていたのですが、コロナ禍がなかなか終わらず、開催がままならないことが悩ましいということでした。

川口氏は、現在本業の傍らでボランティアとして動いています。川口氏が所属する企画財政部企画課が担っているミッションの1つが「人口減少対策」。例えば、人口を創出するような形で市外の企業誘致などの施策を行います。今後、IoT推進ラボやCode for Muroranの活動が盛り上げることで、今後、間接的に企業誘致にもつながり、企業と連携した取り組みにも発展したらと考えているそうです。
 
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