安価に・自前でデジタル化ができるデジタル人材を育成(幸田町IoT推進ラボ)
公開日:
2023年3月23日(木)
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幸田町は愛知県の中南部に位置し、中京経済圏の中心都市・名古屋市から約45km、東三河の中核都市・豊橋市から約30kmの距離にあります。東西10.25km、南北10.55kmで面積が56.72k㎡、町の東部と南西部に丘陵が続き、中心部を流れる広田川沿いに平野が広がっており、温暖な気候と自然にあふれたまちです。
特産品の筆柿やナスなどがあり農業が盛んな一方、町内には「駅西」「坂崎」「西尾」「中部」「長嶺」「須美」「須美南山」と7地区の工業団地があり、自動車関連産業を始めさまざまな分野の製造系企業が拠点を置いています。
幸田町IoT推進ラボは、工学系大学である愛知工科大学内に設置された「幸田ものづくり研究センター」が中心となり、中小製造業だけでは対応が難しいデジタル技術の導入・活用をサポートする産学官連携組織です。企業の生産性の向上や経営改善を支援する事を目的に、人材育成や情報提供、デジタル技術に関する相談などの各種事業を実施しています。
2019年(令和元年)度までの5年間、幸田町IoT推進ラボでは、「スマートものづくり応援隊事業」として、ものづくり改善インストラクター育成スクール事業や経営改善事業に取り組んできましたが、受講生のニーズの変化などを受けて2021年(令和3年)度に取り組み内容を刷新しています。
幸田町IoT推進ラボがセミナー受講者や町内企業にデジタル化の現状についてヒアリングすると、「投資はしたけれども成果が出ない」「導入コストやランニングコストが高い」「社内にITに強い人材が不足している」という声が目立ったそうです。
そうした声から、中小製造業のデジタル化が進まない理由として、導入コストが高く、デジタル化を進められる人材がいないことが最大の原因であることがうかがえたといいます。
そこで、安価に・自前でデジタル化ができるデジタル人材を育成する「デジタル塾」と、IoT推進ラボ事業として安価なデジタルツール開発や提案に取り組む技術相談・支援事業を始めています。
デジタル化するにあたり、生産性向上や作業者の利便性に重点を置き、改善前・後で効果を定量的に評価して進めることの重要性を意識した人材育成を目指しているそうです。
デジタル塾を準備するにあたり、まず中小製造業の目指す「デジタル化」のニーズの把握から始めました。企業訪問しながら、デジタル化を進めている企業と進んでいない企業の課題・問題点を吸い上げていったそうです。
聞き取った中小製造業のニーズを基にして、デジタル技術を活用した「現場改善ツールの設計・製作」が出来るデジタル人材育成プログラムとして、基礎編・活用編・実用編の3部構成でツール開発とテキストを完成させました。初心者でも理解できるテキストおよび体験型の人材育成プログラムになるようにしたそうです。
教材は同センターで一から作成していきました。デジタル塾の講師を務める職員の方は、過去に電気回路についての指導経験や教科書を執筆・編集をしたことがあったことから、教材の用意の段取りなどは心得ていたそう。
しかし、講師の方は電気回路技術のベテランであるものの、Pythonなどソフトウェアに関しては未経験であり、自身で教材を用意しながら、さまざまな文献をインターネットや書籍で調べながら、一から学習したということです。
IoTの基礎となる部分については、参考になる教科書が見当たらず、学習に苦労したということでした。そうした苦労から、用意する教材もおのずと一から学習する初心者の気持ちに立ったものに仕上がったといいます。
教材が出来上がり、受講者募集の告知を出した際には、旧教育プログラムに積極的に参加いただいている企業を中心に募集をかけたため、あまり苦労することなく集客して開催できたということです。受講者の職場は、製造業が中心であり、年齢層は20代~30代の方が中心であるとのことです。
第1期は2022年2月から9月にかけて開催しましたが、研修日程の前半にはまだ教材が完全にそろっていなかったそう。参加者の声を聞きながら教材を仕上げ、第1期の塾の日程が全て終わるころに完成させるという、IoT製品開発でもよく見られる「製品仕様を市場に問う」プロダクトアウトのような考え方です。
その後、2022年11月に第2期の塾を実施しながら、教材をブラッシュアップしていきました。これからちょうど、第3期の塾が始まるところです(記事執筆時点)。
安価に用意ができて現場で役に立つデジタルツールを作ろう
「デジタル塾」で学ぶ改善ツールは、安価に用意ができ、製造現場の作業者が便利さを感じられる物を意識して開発したそうです。
なお、この塾においての「デジタルツール」は、「現場の状態を把握するためにデジタル技術を使って必要な情報をリアルタイムで見えるようにすることで、問題や異常にすぐに気づくとともに問題解決や再発防止の仕組みにつなげていくための「道具」と定義しました。
基礎講座ということもあり、受講生のスキルにはばらつきがあり、回によっては「若干経験のある人」と「全くの初心者(事務職)の人」という具合に差が非常に大きいこともあったそう。その上、自分の手を動かして作業してもらう体験型の講座です。
そのため、塾の進め方には工夫が必要でした。スキルの差に合わせ、例えば学習の進度が早い人にはどんどん先の課題に取り組んでもらう一方、進度が遅めの人は最低限の学習が全うできるよう寄り添ってフォローする、あるいは希望者に補習を実施するなどです。
そのように、受講者個々の様子を見ながらの配慮が必要であることから、塾は最大で6人程度の少人数制にして、講師の目が届きやすいようにしているそうです。
デジタル塾では、このように講師が丁寧かつ臨機応変に対応しているため、過去の回では、終了時には受講者全員が内容を理解できるようになったということでした。
幸田ものづくり研究センターが開発した安価に作成できるデジタルツールには以下のような事例があるそうです。いずれも製造業などの現場で活用しやすくなっており、デジタル塾で学んだ内容を応用して作成できるものとなっています。デジタル塾で学んだことを現場で役立ててもらうために、デジタル塾の際に受講生に紹介を行ったそうです。
ITやデジタルの技術は日進月歩で急速に進化しています。例えば、Pythonのプログラムもバージョンアップすると共に、プログラムの書き方の一部が大きく変わってしまうこともあります。受講生には「塾が終わった後も、勉強し続けてほしい」というメッセージを込めながら、インターネットや文献で新しい情報をうまく調べる方法も伝えているそうです。
一方で、講師も、勉強し続けていかなければならず、今後も研鑽し続けていくということでした。
今後も継続してデジタル塾を開催し、中小製造業のデジタル人材育成に努めていくとのことです。デジタル化を各企業が推進するためには経営者の理解が必要不可欠です。
今後は、デジタル塾に参加した企業を対象に、同センターと経営者・受講者による情報交換会を定期的に開催。受講生の自社におけるデジタル化推進の支援を定期的な訪問などを通じて実施していく計画です。
特産品の筆柿やナスなどがあり農業が盛んな一方、町内には「駅西」「坂崎」「西尾」「中部」「長嶺」「須美」「須美南山」と7地区の工業団地があり、自動車関連産業を始めさまざまな分野の製造系企業が拠点を置いています。
幸田町IoT推進ラボは、工学系大学である愛知工科大学内に設置された「幸田ものづくり研究センター」が中心となり、中小製造業だけでは対応が難しいデジタル技術の導入・活用をサポートする産学官連携組織です。企業の生産性の向上や経営改善を支援する事を目的に、人材育成や情報提供、デジタル技術に関する相談などの各種事業を実施しています。
愛知工科大学テクノ夢トピア棟3階
2019年(令和元年)度までの5年間、幸田町IoT推進ラボでは、「スマートものづくり応援隊事業」として、ものづくり改善インストラクター育成スクール事業や経営改善事業に取り組んできましたが、受講生のニーズの変化などを受けて2021年(令和3年)度に取り組み内容を刷新しています。
幸田町IoT推進ラボがセミナー受講者や町内企業にデジタル化の現状についてヒアリングすると、「投資はしたけれども成果が出ない」「導入コストやランニングコストが高い」「社内にITに強い人材が不足している」という声が目立ったそうです。
そうした声から、中小製造業のデジタル化が進まない理由として、導入コストが高く、デジタル化を進められる人材がいないことが最大の原因であることがうかがえたといいます。
そこで、安価に・自前でデジタル化ができるデジタル人材を育成する「デジタル塾」と、IoT推進ラボ事業として安価なデジタルツール開発や提案に取り組む技術相談・支援事業を始めています。
デジタル化するにあたり、生産性向上や作業者の利便性に重点を置き、改善前・後で効果を定量的に評価して進めることの重要性を意識した人材育成を目指しているそうです。
デジタル塾を準備するにあたり、まず中小製造業の目指す「デジタル化」のニーズの把握から始めました。企業訪問しながら、デジタル化を進めている企業と進んでいない企業の課題・問題点を吸い上げていったそうです。
聞き取った中小製造業のニーズを基にして、デジタル技術を活用した「現場改善ツールの設計・製作」が出来るデジタル人材育成プログラムとして、基礎編・活用編・実用編の3部構成でツール開発とテキストを完成させました。初心者でも理解できるテキストおよび体験型の人材育成プログラムになるようにしたそうです。
教材は同センターで一から作成していきました。デジタル塾の講師を務める職員の方は、過去に電気回路についての指導経験や教科書を執筆・編集をしたことがあったことから、教材の用意の段取りなどは心得ていたそう。
しかし、講師の方は電気回路技術のベテランであるものの、Pythonなどソフトウェアに関しては未経験であり、自身で教材を用意しながら、さまざまな文献をインターネットや書籍で調べながら、一から学習したということです。
IoTの基礎となる部分については、参考になる教科書が見当たらず、学習に苦労したということでした。そうした苦労から、用意する教材もおのずと一から学習する初心者の気持ちに立ったものに仕上がったといいます。
教材が出来上がり、受講者募集の告知を出した際には、旧教育プログラムに積極的に参加いただいている企業を中心に募集をかけたため、あまり苦労することなく集客して開催できたということです。受講者の職場は、製造業が中心であり、年齢層は20代~30代の方が中心であるとのことです。
1回目 デジタル塾の開催の様子
第1期は2022年2月から9月にかけて開催しましたが、研修日程の前半にはまだ教材が完全にそろっていなかったそう。参加者の声を聞きながら教材を仕上げ、第1期の塾の日程が全て終わるころに完成させるという、IoT製品開発でもよく見られる「製品仕様を市場に問う」プロダクトアウトのような考え方です。
その後、2022年11月に第2期の塾を実施しながら、教材をブラッシュアップしていきました。これからちょうど、第3期の塾が始まるところです(記事執筆時点)。
安価に用意ができて現場で役に立つデジタルツールを作ろう
「デジタル塾」で学ぶ改善ツールは、安価に用意ができ、製造現場の作業者が便利さを感じられる物を意識して開発したそうです。
なお、この塾においての「デジタルツール」は、「現場の状態を把握するためにデジタル技術を使って必要な情報をリアルタイムで見えるようにすることで、問題や異常にすぐに気づくとともに問題解決や再発防止の仕組みにつなげていくための「道具」と定義しました。
デジタルツールの導入イメージ
基礎講座ということもあり、受講生のスキルにはばらつきがあり、回によっては「若干経験のある人」と「全くの初心者(事務職)の人」という具合に差が非常に大きいこともあったそう。その上、自分の手を動かして作業してもらう体験型の講座です。
そのため、塾の進め方には工夫が必要でした。スキルの差に合わせ、例えば学習の進度が早い人にはどんどん先の課題に取り組んでもらう一方、進度が遅めの人は最低限の学習が全うできるよう寄り添ってフォローする、あるいは希望者に補習を実施するなどです。
そのように、受講者個々の様子を見ながらの配慮が必要であることから、塾は最大で6人程度の少人数制にして、講師の目が届きやすいようにしているそうです。
デジタル塾では、このように講師が丁寧かつ臨機応変に対応しているため、過去の回では、終了時には受講者全員が内容を理解できるようになったということでした。
幸田ものづくり研究センターが開発した安価に作成できるデジタルツールには以下のような事例があるそうです。いずれも製造業などの現場で活用しやすくなっており、デジタル塾で学んだ内容を応用して作成できるものとなっています。デジタル塾で学んだことを現場で役立ててもらうために、デジタル塾の際に受講生に紹介を行ったそうです。
- 設備の運転・停止表示装置:設備の運転ランプやシグナルタワーのランプに取り付けた光センサーの信号を、無線マイコンを使って無線で送受信する。運転ランプが点灯中は緑色、消灯中は赤色で時間軸に帯を表示する事で、停止時間と停止回数を見える化する。
- 重要設備 停止タイマー:設備の運転ランプやシグナルタワーに光センサーを取り付け、センサーの信号を、無線マイコンを使って無線で送受信する。 運転ランプが消灯(運転停止)したときから、あらかじめ設定した時間間隔で経過時間を棒グラフで表す。設備の停止時間を視覚的に見える化でき、設備が長時間停止し、設定した時間を超過するとブザー音で知らせる。
- 製造ラインの見える化:センサーを用いて加工サイクルタイムを取得することで製造ラインの稼働状況を見える化する。
- 温湿度など 測定ツール:温度・湿度などを測定し、マイコンを用いてデータをリアルタイム表示や蓄積する。又、取得データの正常・ 異常を容易に表示することが出来る。
ITやデジタルの技術は日進月歩で急速に進化しています。例えば、Pythonのプログラムもバージョンアップすると共に、プログラムの書き方の一部が大きく変わってしまうこともあります。受講生には「塾が終わった後も、勉強し続けてほしい」というメッセージを込めながら、インターネットや文献で新しい情報をうまく調べる方法も伝えているそうです。
一方で、講師も、勉強し続けていかなければならず、今後も研鑽し続けていくということでした。
今後も継続してデジタル塾を開催し、中小製造業のデジタル人材育成に努めていくとのことです。デジタル化を各企業が推進するためには経営者の理解が必要不可欠です。
今後は、デジタル塾に参加した企業を対象に、同センターと経営者・受講者による情報交換会を定期的に開催。受講生の自社におけるデジタル化推進の支援を定期的な訪問などを通じて実施していく計画です。