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深刻な水害から(直方)市民を守る「遠隔監視樋門管理システム」を開発

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近年、九州地方では、世界的な気候変動の影響を受けた集中豪雨や台風による土砂崩れや損壊家屋、浸水家屋といった被害にたびたび悩まされています。
 
九州北部にある一級河川の遠賀川は直方市、田川市、飯塚市といった都市部をまたいで流れ、昔から社会や経済の基盤を作りあげてきました。遠賀川周辺には人口が集中しており、川が氾濫し洪水が起これば、甚大な被害に見舞われます。遠賀川水域においても、近年の気象変動を受け、治水対策の強化が進められてきました。
 
2019年(令和元年)度から、福岡県の直方市役所を中心として活動する直方市IoT推進ラボでは、ITの力を使った水害対策について研究や実証実験を行っています。

直方市民を水害から守る樋門をIT化

集中豪雨や台風で河川が増水した際に、住宅地への逆流を防ぐ設備を「樋門(ひもん)」といいます。直方市内に流れる遠賀川およびその支流にも数多くの樋門が設置されています。
 
この樋門の開閉作業は、その多くが地域に居住する人が手動でハンドルを回して行います。経験や勘が適切な作業に効いてくる業務であり、かつ開閉作業の発生タイミングが事前に予測できないものであることから、担当者はそれがまるで生活の一部のように時間が拘束され、「昔から、比較的時間のある高齢者が携わることが多い仕事」と直方市役所産業建設部商工観光課産業イノベーション推進係 係長の米澤隆司氏は述べます。
 
「大雨の中などで行う、危険が伴う過酷な仕事であることもあり、若手の後継者はなかなか見つかりません。佐賀県では、2021年に樋門の作業で命を落とした方もいました」。担当者の高齢化はますます進み、後継者確保は困難を極めているといいます。
 
直方市IoT推進ラボでは、同地域近郊のIT企業や製造企業、大学と協業して、樋門の制御や監視を遠隔から行うシステムに関する研究開発を、2020年(令和2年)12月から開始。樋門に水位、流速、流向などを計測するセンサーや監視カメラを設置し、そこから取得する計測データに基づいて、遠隔地から通信を介して樋門の開閉動作を安全に実施することを目指しました。
フィールドテストの様子
 
実証実験では試作システムを用いて、樋門から約6km離れた遠隔からの監視および操作の仕組みについて、数十回の動作を繰り返して検証し、平時においては問題なく動作ができることを既に確認しているということです。

実用化を目指し、コストや仕様を現実的なものにする

開発する施設は、地域住民の生命や財産を守るものです。実証作業においては、安全対策が入念に行われています。また、国交省などが開発する水門制御システムのような大掛かりな仕組みではなく、もっと簡便な仕組みかつ低コストで実現することを目指しています。コスト低減と安全性の両立は、かなりのチャレンジであると米澤氏は言います。
 
「コストの上限については協力企業に明確に提示し、それに基づいて開発を進めてもらっています。また大学に協力してもらいシミュレーションも実施して、安全性について慎重に検証しています」(米澤氏)。コストダウンへのアプローチとしては、多額の工事費用を発生させないように、既存の樋門に後付けでシステムが設置できるように開発しているということです。樋門はシンプルな機構であることから、メンテナンスが簡便で耐久性にも優れており、何十年もの長きにわたって安定して使えるものであるといいます。
 
今回の研究開発には、大学や企業などの知見や技術(特許など)が不可欠であったため、IoT推進ラボが主体となって研究開発に関するマネジメントを行っています。今回の成功要因については、「市が、基礎研究段階から研究開発に積極的に関わり、マネジメントを行ったこと」であると、米澤氏は述べています。
 
「技術開発の部分は企業や大学への委託になりますが、そこへ『丸投げ』する形にはせず、産官学で違う視点を取り入れての議論をまとめてバランスを取り、実用化に向けて現実的な成果が出せるようにしてきました」
 
いよいよ、プロジェクトの最終年度となる見込みであるという2022年(令和4年)には、システムの完成および実用化に向けて、実際の使用場面である荒天時の実証などで、耐久性や安全性の最終検討をしていきます。その後は、事業化や量産計画を進めて、直方市の産業振興へとつなげていく計画となっています。
 
なお実運用においては、監視センターを設けての遠隔での完全集中監視・制御とするか、地域担当がスマートフォンやタブレット端末を所有しクラウドシステムを利用して管理する形にするか、今も議論の最中であるといいます。樋門をオペレーションする時の判断は経験と勘が必要であり、様々なケースを考え、運用方法を慎重に検討したいと米澤氏は述べています。
 遠隔からの樋門開閉オペレーションの様子

「樋門のオペレーションや監視がIT化できれば危険な場所での作業をしなくて済むため、『これなら自分にもできそう』だと業務継承の希望者も出てくることを期待しています」(米澤氏)。
 
直方市IoT推進ラボの研究開発では、必ず地元企業を研究チームに入れることを必要事項とし、市が抱える課題はできる限り、市にある技術を用いるようにして、産業振興へつなげようとしているといいます。
 
直方市も近年、少子高齢化や人口減少に悩まされる地方都市の1つです。直方市IoT推進ラボでは今回のような事業創出の取り組みと併せ、副業やリモートワークの促進など働き方改革への支援も行い、市内近隣産業を活性させることで、人口増加へつなげていきたい考えだということです。
 
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