居酒屋DX推進で店舗スタッフの定期的なマスト作業を排除し本来業務に専念できただけでなく、IT企業のビジネスの可能性も広がった――津山市DX推進ラボ

津山市DX推進ラボの事務局を務めるつやま産業支援センターによる、「つやまICTコネクト」は、岡山県津山市内のICT企業14社によるICT支援ネットワークです。同ラボが今回紹介してくれたのが、津山市内で飲食店を経営する株式会社KIENと、つやまICTコネクトに参画するIT企業の株式会社RELATIONの共同により、冷蔵庫の温度監視IoTシステムを開発・導入した事例です。

KIENは、津山市内に本社を置き、和食居酒屋を経営しています。同じく津山市内が本社であるRELATIONは、ソフトウェア開発やインターネットサービスなどを提供するIT企業です。2社は、和食居酒屋の厨房にある冷蔵庫内に温度センサーを設置。センサーから温度データを自動で取得しクラウドシステムに送信・記録する一方、管理温度が設定範囲を逸脱した場合には、スマートフォンにアラートを送信する仕組みを構築しました。

津山信用金庫と合同で行った地域中小企業のDX推進状況アンケートの結果を元に、つやま産業支援センターのICTコーディネーターである小林氏が、日々、津山市内の企業を訪問、ITやデジタル活用についてヒアリングしている中、KIENのマネージャーで、和食居酒屋の店長である前原氏とお会いし、店舗経営の悩みをいろいろ聞く機会がありました。前原氏は、ミドルエイジの方でITに対して比較的関心が高く、小林氏のITやDX関連の話にも前向きに耳を傾けてくださったそう。そして、ITで解決したいという課題がたくさん挙がってきたとのことです。当然、それを一気に解消するのは容易ではないため、小林氏と前原氏とで一緒に課題を整理。ひとまずスタッフの業務手順やルールなどを大きく変えなくてもよい課題から取り組むことになりました。それが、冷蔵庫の温度確認の自動化でした。そして小林氏が、協力企業としてKIENに紹介したのが、RELATIONでした。

解決する課題

KIENが経営する和食居酒屋は、多種なお酒と一緒に、新鮮な馬肉、鶏肉、野菜などを楽しむお店です。食中毒を予防する観点では、ヒトの五感から得られる食材状況の他、日々食材を保存している間の温度を管理しなければなりません。そのため店舗スタッフが厨房に備える冷凍庫や冷蔵庫の温度計を目視で確認し、手書きで記録していました。この定期的なマスト作業は、気遣いとスピード感が求められる接客や調理などの業務と並行して行うため、スタッフにとっても大きな負担となっていました。

冷蔵庫温度監視システムの導入により、この定期的なマスト作業を意識する必要がなくなり、業務に専念できるようになりました。その結果、店舗スタッフにかかる負担を軽減できるだけでなく、新人スタッフへの営業教育時間の確保、食材の品質保全、無駄な電気料金の削減、冷蔵庫の機能保全、冷蔵庫機能管理及び買い替え時期の参考資料構築など……、幅広い効果が想定できました。従業員の働きやすさの向上のみならず、店舗経営の効率化、危機管理能力の向上にも寄与するだろうと考えたそうです。

そこでKIEN とRELATIONで、どういう仕組みであれば実現できそうか議論しながら、温度センサーの設置方法やデータ送信の仕組みをどう開発していこうか検討していきました。

IoTシステムを備えた冷蔵庫もありましたが、まだ長く使える店内の冷蔵庫を、そのために全て入れ替えるのは現実的ではないと考えました。それに、ITのスペシャリストではない人たちや、普段の生活ではスマホだけでPCを使わない人たちなどでも、現場で簡単に使え、自分たちで維持していける仕組みであることも重要な要件でした。

解決方法



システムの概要

この事例では、「スマートフォンへのアラート送信の開発」「既存設備へのセンサー後付け施工」を要件としました。電子部品通販で買える安価な小型Wi-Fi開発ボード「Wio Node」、IoTデータ可視化サービス「Ambient」の無償版、スマートフォンアプリの「LINE」を活用。コストや難易度的には、電子工作に少し詳しい学生や個人で扱える仕組みです。そうでありながら、なかなか有能なシステムであり、冷蔵庫の温度は約30秒ごとにWio Node を使ってデータを飛ばし、Ambientに収集。温度の異常値を検知すると、LINE上のKIENの経営陣がいるグループチャットに飛ばす仕組みになっています。Ambient上でグラフ表示させるだけでなく、データはCSVで吐き出せるため、データの保存やグラフで可視化して分析することも可能になりました。


店内冷蔵庫に設置したセンサー(上写真)とマイコン(下写真)

マイコンの設定

結果

コンパイルエラーが出るなどで多少試行錯誤はしたものの、比較的順調にシステムが立ち上がり、すんなり運用開始できたそうです。上記のように、導入コストも廉価で済み、その後の維持費用もかかっていません。このシステムが導入されたおかげで、まず店舗スタッフは冷蔵庫の温度確認や記録をしなくて済むようになり、接客や調理業務に専念できるようになりました。店舗スタッフがこのシステムのために何か覚えたり、仕事が増えたりといったことは一切なく、定期的なマスト作業を意識する必要がなくなりました。実際、店舗スタッフからも、仕事が楽になったと好評であるそうです。また庫内温度に異常があると、速やかにLINEメッセージで通知されるため、不具合時の対応も迅速に行えるようになりました。 

今後の課題

今回、和食居酒屋で導入した仕組みを事例発表することにより、同じ悩みをもつ飲食店経営者のみならず、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の小売業においても貢献できるシステムではないかと考えるKIEN前原氏。そこには行政(つやま産業支援センター)とIT企業(RELATION)の協力が不可欠といいます。KIEN前原氏は、今回導入した仕組みが、店舗スタッフの定着率の向上にもつながったら幸いであると考えているということでした。

またAmbientで日々収集しているデータは、ExcelなどOfficeツールや、Googleなどが使える人であれば簡単に利用できます。そのデータを今後、食材の品質保全や、電気料金の削減に役立て、居酒屋DXを目指していくそうです。
 
システム開発やインフラ構築が得意で、IoT関連の開発は積極的に取り組んでいませんでしたが、組み込み系システムの実績があるSEが主導し、社内で意見を出し合いながら開発を進めたということでした。この取り組みがきっかけでRELATIONも、新たなソリューションビジネスの可能性を見出すことができたとのことです。

 

 


津山市DX推進ラボは、市内企業のデジタル化、デジタル人材・DX人材の育成、イノベーションの創出に資する事業を推進することで、市民生活の利便性向上や各産業における生産性向上、DXの実現、IT企業への就業や成長を後押しし、津山市の持続的発展に寄与しています。

問い合わせ先
つやま産業支援センター
電話:0868-24-0740
メール:info@tsuyama-biz..jp
 

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