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企業に寄り添って課題が何かを一緒に考える(富山県IoT推進コンソーシアム)

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富山県といえば「薬」という方も多いかもしれませんが、製薬業はもちろん、アルミなどの金属加工業、プラスチックの射出成形や金型製作を請け負う機械メーカーなどが目立ちます。医薬品産業と共に発展した、包装・梱包関連の技術が得意な企業も県内に多くあります。

富山県IoT推進ラボの運営主体である富山県IoT推進コンソーシアムは、2017年(平成29年)9月に開設。2023年(令和5年)2月時点で373企業・団体が参加しています。参加企業の半分程度が製造業であり、大手・中堅から中小企業まで多種多様な企業が参画しています。

富山県IoT推進ラボでは、「IoTの普及・啓発」「人材育成」「コンソーシアム活性化」の3事業を柱としています。その中で、事例紹介動画や取り組み事例集の公開、IoTについて具体的な取り組み方法を学ぶ講座、IoTなどに関する相談窓口の開設、取り組みを普及するための全体会(総会)などを実施しています。

2018年(平成30年)度からは、自社にあったIoT導入方法を検討するワークショップを毎年開催しています。ワークショップには、企業の経営者や管理職のほか、サポーターとしてコンソーシアム協力企業の経営者や一般企業に勤めるIT指導者などが参加しています。

また、富山県立大学と連携し、企業現場でのセンサー活用や、Pythonのプログラミングについて、講習を行っています。そのほか、基礎知識を十分積み重ねた参加者向けとして、IoTで収集したデータを活用するためのデータサイエンス関連の講座も開催しています。

講習の様子

経営者から、あるいは現場から――進め方がそれぞれのIoT事例
タカタ精密工業株式会社
ワークショップ参加者の1社である、金型部品などを製作するタカタ精密工業(富山県中新川郡立山町)では、「本部長のやるべき仕事が多すぎて過負荷状態になっている」ことが課題になっていました。本部長の仕事は、工場全体の納期と工程管理もしながら、高精度機のオペレーターも担い、さらに難易度の高い部品の見積もりと、新人教育、客先との電話応対、新規案件の検討など……、マネジメントから現場作業まで多岐にわたっていました。

また、見積もりと実工数とのばらつきや見積もり業務の効率も課題になっており、それも本部長の業務を圧迫する大きな要因になっていました。

そこで、加速度センサーや光センサーを加工機に取り付けて稼働時間を計測しつつ、現場に設置したディスプレイに映し出すことで、IoTを活用した稼働状況の可視化を実現しました。本部長を含めた従業員の業務量をリアルタイムで把握でき、従業員の労働環境改善につなげました。今は各種センサーから得られたデータをどのように経営に役立てていくか、方法を模索しておられます。

同社は、ワークショップに取り組む前は、デジタル化にほぼ未着手であり、従来の紙や人中心の業務を行っていました。ワークショップ参加のきっかけは、富山県IoT推進コンソーシアムの一員であった取引先企業からの紹介が理由であったとのことで、「当社に必要なことなのだろうか?」という疑問を持ちつつ、「お客さまの勧めで断るわけにもいかず……」というスタンスだったそうです。
タカタ精密工業株式会社 高田社長

しかし、経営者である高田社長自身がワークショップに参加を続け、課題についてのヒアリングをじっくり受ける中で、自社でのIoT活用の意義に気が付き、ITやツールに関する知識についても自ら理解を深めていったことで、今回の成果につながったということです。

成果につながった要因としては、「社長自身がご存じでないことに対して素直に学ぶ姿勢であり、支援をする側や指導員も何をアドバイスしたらいいか明確であったこと。ワークショップ終了後に社内で実直に実装を進めていたこと」と富山県IoT推進コンソーシアム事務局の中林氏は考察しています。また、「ワークショップに参加し、IoTを導入しようと決断したのが経営者自身であったことも大きいのではないか」ということです。


ケーシーアイ・ワープニット株式会社
トリコット生地(弾力・伸縮性があり、肌着・シャツ・靴下などに利用される生地)を取り扱うケーシーアイ・ワープニット株式会社(富山県南砺市)は「編機の稼働率(生産力)向上、もしくはロス(不良品、不良によるカット等)削減」というテーマに取り組みました。
同社の場合、ワークショップに参加したのはタカタ精密工業とは異なり、現場担当でした。社内も設備が古く、デジタル化や可視化があまり進んでおらず、現場でそれを問題視したことが参加のきっかけだったといいます。

ワークショップで同社は、現場の稼働状況を従業員が正しく把握し、最適な改善につなげていくことで、稼働率向上につながるシステムの構築を目指しました。現場ではデータに基づく改善提案が十分でなく、経験や勘による指導が常態化しており、作業効率の低下や従業員の退職によってノウハウが失われていくという問題がありました。

そこで、駆動モータの電流をCTセンサーで取得し、マイコンボードで処理されたデータをクラウドシステムに集約することで、機械の稼働データは100%正確に取得するシステムを開発しました。機械が停止した場合は問題解消後、停止理由を入力し、後日分析・共有することで不良品の減少や機械稼働率向上につながったそうです。

このようにシステムから取得したデータは現場だけではなく、事務室や携帯端末からも閲覧することが可能で、システムが閲覧できる条件さえ整えばどこからでも編み立て工場全体の稼働情報をリアルタイムで見ることができます。

「ケーシーアイ・ワープニットでは、この取り組みの前にまず5S活動を小集団単位で始め、『改善提案に取り組むことで自分の仕事がやりやすくなる』『提案しても頭ごなしに否定されず、考えてくれる』という前向きな空気感の醸成に努めました。改善活動の効果を現場が実感するという成功体験が得られるようにして、改善活動に取り組む熱意を高めてきたことが、IoTシステムのスムーズな導入につながったのではないでしょうか。」(中林氏)

ちなみに同社の取り組みは、DXセレクション2023で優良事例としても認定されたそうです。

企業それぞれの悩みをしっかりとヒアリングする
これまでのワークショップは、ある程度IoT導入が進んでいる企業の参加が多く、逆に取り組みがあまり進んでいない企業はそもそもワークショップに参加しようとする意志があまり見られないことが課題になっているそうです。特に、中小企業では、参加に消極的な企業が目立つということです。その理由の1つについて、「大手企業と中小企業とで、抱えているIT人材に違いがあること」と中林氏は指摘しています。「大手企業はIT専門の部門を抱えているところが少なくないが、中小企業では外部のITベンダーに頼りきりで、ITに詳しい人材を抱えていないことが多い」とのことです。

世の中で一般的なIoTの事例も実際は、前提とする知識レベルが高度な取り組みが少なくありません。例えばそうしたレベルの高いワークショップに、県内中小企業が参加した場合、そのレベルの高さに愕然とし、「自社ではできない」と早々に脱落してしまうそうです。

そういった脱落を防ぐため、講座の内容としては、例えば「紙で運用している日報などをデジタル化する」「設備にセンサーを取り付けてデータ収集してみる」など、現場でのいつもの作業を変えずに簡単に実践しやすい内容を用意するように工夫しているとのことです。
ワークショップの様子

また、これまでのワークショップでは、与えられたテーマに対してチームで改善策を考えていくという形でしたが、近年は参加者が実際に抱える経営課題を基に解決策を考えていく形の講座に変えたそうです。これまで参加することを躊躇していた企業に興味をもってもらうための変更でしたが、目論見通り、そうした企業の参加を促すことにつながったということでした。今後は、事前に参加者が抱える課題やレベル感についてしっかりとヒアリングをしつつ、それに見合った講座に参加してもらえる体制を整えていくとのことです。
 
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