札幌を国内屈指のAI都市へ成長させるイノベーション(札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアム)

2023/03/23(木)
北海道の道庁所在地である札幌市は、1869年に開拓使が設置されて以来、人口の増加を背景に経済も発展。現在では人口190万人を超え、国内4番目の人口を有する都市です。札幌市は飲食・宿泊業などの第3次産業が中心となっており、北海道の豊富な資源を活かした食や観光関連作業が集積していることも特徴です。

札幌市は、1980年代という早い時期から情報通信関連企業が集積する研究開発型の団地(札幌テクノパーク)を開発するなど、全国に先駆けてIT産業の振興に努めてきました。市内IT産業の売上規模は右肩上がりで推移しており、札幌市における基盤産業の1つになっています。

そして、2016年からは、市内IT産業の更なる活性化を目指して、札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアムを設立しました。以来、札幌市とさっぽろ産業振興財団が事務局を運営し、市内IT企業や北海道大学などの研究機関、金融機関などの関係機関、「NoMaps」や「Startup City Sappporo」などのプロジェクトと連携しながらさまざまな施策を実施しています。


札幌の強みを生かしたイノベーション創出とエコシステム構築を目指して
札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアムでは、IT産業をはじめとする市内産業全体の高度化を実現するために、「北海道大学等の最先端かつ広範な研究開発」と「それを社会実装する意欲的なIT企業群」という2つの札幌の強みを生かすことにより、AIなどの先端技術の活用や、他分野との融合によるイノベーション創出とエコシステム構築を目指して活動しています。

同コンソーシアム傘下には専門部会として「AI研究部会(Sapporo AI Lab)」を設置し、ラボ長である北海道大学調和系工学研究室川村秀憲 教授を中心として、AI関連技術を活用した新たなビジネスの創出やAI関連企業の集積・企業の促進、AI 関連人材の確保・育成、さらなる集積を目的とした施策を実施しており、その施策の一環として、市内におけるAIの普及啓発や活用促進を目的としたリーディング・プロジェクトの実施に取り組んできました。

その1つが俳句を自動生成するAI、その名も「AI一茶くん」です。AI一茶くんは札幌市内のIT企業と北海道大学との共同開発で生まれました。まず、画像データと俳句そのものや季語の文字列との関係性を数多く収集したデータベースを作成しておき、さらに古典俳句の文字列データを機械学習した上、俳句のルールに従う文字列を自動生成するという仕組みです。

現状のプログラムで生成される俳句は、情感にあふれた非常によくできた作品を生み出せるということで人が詠んだものと見分けがつかないそう。AI一茶くんは全国紙で取り上げられたり、バラエティ番組の企画で使われたり、書籍が出たりと、メディアで大変話題になりました。AI一茶くんは今後も改良を続け、最終的には俳句を批評できるようにまでしたいとのことです。

その他にも、ホームページ・SNSを活用した情報発信やセミナー開催を通じたAIの普及啓発、産学官のコーディネートによる新規ビジネス創出などの活動も行っています。


地方におけるAI活用の遅れと、人口減少を背景とするDX需要の高まり
AI需要は全国的に年々増加傾向にあり、首都圏を中心として様々な企業がAI開発に取り組んでいます。

札幌市においても、市内IT企業によるAI分野の事業領域拡大に加えて、北海道大学発のベンチャーを中心にAIを活用したサービスを展開するスタートアップが創出され、全国・世界を舞台に活躍しています。

また、Sapporo AI Labが企画するAIプランナーの育成と普及啓発を目的とした経営層向けの勉強会や、エンジニア向け勉強会の受講者が累計で1,000人を超えており、AI人材の育成が進んでいます。

しかし、勉強会(座学)で培った知識・技術を活用する機会がなかなか得られず、実際の開発プロセスの経験を積むことができないため、実践的な人材は依然として不足しているとのことでした。

また、地方における中小企業(非IT企業)の多くが、AIの活用方法が判らなかったり、AI導入について相談できる相手がいないといった課題を抱えており、首都圏と比較すると、地方におけるAI活用はまだまだ遅れているとのこと。

さらに、札幌市の人口は、昨年になって戦後初めて減少に転じました。札幌市の人口推計によると、今後は更なる減少が見込まれ、経済活動を支える生産年齢人口も大きく減少する見通しとなっていることから、これまで以上にAI等先端技術を活用して、あらゆる産業分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現することが必要になっています。


実践的AI人材育成・実証プログラム「札幌AI道場」を開始
AI人材の育成と、AIを活用した事例創出の取組をさらに加速させるため、Sapporo AI Labでは2022年度より、実践的AI人材育成・実証プログラム「札幌AI道場」を開始しました。


札幌AI道場は、実課題に基づく課題解決型AI人材育成(PBL)とAI開発の実証(PoC)を同時に行うプログラムであり、参加者同士でチームを組み、企業が抱える実課題を題材としてAI開発を行うことによって、実際の開発案件と同様の流れでAI開発を学習することができるようになっています。

また、課題を提供する企業にとっては、無償で試験的にAIモデルの導入をすることが可能であることに加えて、成果が見込めるものについては、継続して本格実装に向けた支援が受けられます。

2022年度の札幌AI道場は、初年度の取組にも関わらず、定員を大きく上回る応募がありました。そこから事務局による選考を経て18人の参加者が選定され、6人ごと3チームに分かれて、専属メンターの指導の下でAIシステムのプロトタイプ開発に取り組んできました。

実際の開発プロセスを経験することによって、例えば、企業へのヒアリングや現地調査をもとにしたシステム仕様の決定や、AI学習に利用するためのデータ収集・分類・加工作業、AI開発は通常の開発と異なり事前に成果を保証することができないため企業の期待値コントロールを行う必要があるなど、座学だけでは習得が難しいAI開発特有のプロセスについて実践を通じて学んできました。

○2022年度における実施プログラム

餃子の不良品検知(課題提供企業:株式会社テンフードサービス)

餃子の製造工程における不良品検査を人手で行っており、稀に見落としなどが発生しているとのこと。その課題を解決するため、不良品検査を自動化するシステムの開発に取り組みました。

企業へのヒアリングや、現地調査(工場見学)などを通じてシステム仕様を決定。AIによる物体の検知や不良品の判定に用いるアルゴリズムの比較検証を経て、企業から提供された餃子の画像データを対象としたテストにおいて、不良品判定の誤検知率が0%となるシステムの構築に成功しました。

丸とろろの不良品除去(課題提供企業:株式会社近海食品)

丸とろろなど昆布加工食品の製造工程における不良品検知を人手で行っていることから、不良品の検査を自動化するシステムの開発に取り組みました。

企業から提供された丸とろろの画像データをもとに、回転や拡大・縮小などの加工を行い、AI学習に用いる教師データを自作。オリジナル画像のみで学習させるパターンや、加工画像を用いるパターンなど、複数のパターンでAI学習の比較検証を行い、9割以上の精度で不良品判定を行うシステムの構築に成功しました。

商品サイズの自動測定(課題提供企業:株式会社北翔)

車部品の販売等を行うにあたって、大小様々な種類の商品を扱っており、ここ10年間で入出荷数が16倍程度に増加したとのこと。それに伴い、梱包する段ボールのサイズが適切でなかったり、入荷処理の過程で商品番号の確認ミスが発生するなどの課題を抱えているため、入荷処理の作業を省力化する最初のステップとして、入庫時の画像から商品サイズ(縦×横×高さ)を自動測定するシステムの開発に取り組みました。

様々な角度から撮影された商品画像の中からAIの判定に使いやすい画像(真上や真横から撮影されたもの)を抽出し、ノイズ除去など必要な前処理を行ったうえで測定結果を出力し、実測値と比較して数cm程度の誤差で測定可能なシステムの開発に成功しました。

○成果発表会の開催

2023年2月7(火)、市内の会場で成果発表会を開催し、市外や道外からの来場者を含め、100人を超える人々が参加しました。当日は成果発表に加えて、Sapporo AI Labのラボ長である川村 秀憲氏(北海道大学大学院情報科学研究院 教授)、ラボの事務局長である中村 拓哉氏(株式会社調和技研 代表取締役)、そしてゲストとして岡田 隆太朗氏(日本ディープラーニング協会 事務局長 兼 理事)が登壇し、札幌AI道場に対する講評や今後への期待などについてお話しがありました。

「いくつかの事例は本当に工場で実用化する一歩手前まで仕上がっていて、本当に驚き。」(川村氏)

「AIの産業実装には大事なのは人材育成と活用事例の創出・発信。AI道場ではそれらがセットになっている。」(岡田氏)

「これをきっかけに地域の人材が実際の課題を解決する、そこでビジネスとしてお金も循環する仕組みができることが理想。」(中村氏)




札幌市内企業の先端技術活用の機運醸成を目指す
札幌AI道場は、第一期の実績や成果、改善点などを踏まえて、取組内容のブラッシュアップや規模の拡大に加えて、ターゲットを学生などにも広げるなど、道場(第2期)の開設に向けて、更なるレベルアップを計画しています。

また、札幌市では、市内企業のAI開発に関する機運醸成を更に進めるために、札幌AI道場の参加者を中心として、札幌AIラボパートナー制度の構築を進めています。札幌AIラボパートナーを受け皿として国内外からの開発案件を地場で受注可能とし、札幌におけるAI人材の育成、AI開発企業の集積、地域企業間の協業や地域発のAI開発の促進を目指していくとのことでした。

さらに、札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアムでは、今後、市内産業全体の活性化をより強く後押ししていくため、Sapporo AI Labの取組に加えて、新たにXR推進部会やDX推進部会を設立し、XR技術の普及促進・人材育成や、中小企業におけるDXの推進にも精力的に取り組んでいくとのこと。

AIやXR等先端技術を活用する人材・企業が集積し、それらの社会実装が進むことによって、官民のDX推進や、スマートシティが実現される。そんな未来の札幌が今から楽しみです。

参考
札幌市のあらまし
https://www.city.sapporo.jp/city/aramashi/index.html
札幌AIラボ
https://www.s-ail.org/
札幌市テクノパーク
https://www.elecen.jp/techno/

 

カテゴリー Category

アーカイブ Archive

地域DX推進ラボ数

38

地方版IoT推進ラボ数

72

おすすめ記事 Recommend

人気記事 Popular

リンクバナー Link banner

リンクバナー一覧