「デジタルを使って佐賀で稼げる」を実現する産業DX推進戦略――佐賀県DX推進ラボ

デジタルという武器を操る「侍」と「忍者」を育成するセミナー

佐賀県DX推進ラボの事務局であるSaga innovation & creative Lab.(佐賀県産業労働部産業DX・スタートアップ推進グループ)は、2018年開設の佐賀県産業スマート化センターを県内企業のDX推進のハブとしています。「企業支援」と「人材育成」の両輪での活動に取り組むとともに、同じ部署で取り組んでいるスタートアップ支援「Startup Ecosystem SAGA」とも連携しています。

Saga innovation & creative Lab.の特色の一つはDX人材の育成です。プログラミング人材の育成のためにPythonについて学ぶ「SAGA Smart Samurai」と、社内DXリーダーの育成のためにSaaSやノーコードツールについて学ぶ「SAGA Smart Ninja」という二本立ての講座を開講。それぞれ定員100名、4か月という本格的な講座で、ソフトウェアの開発者・技術者など理系の人だけではなく、プログラミングなどの経験がない文系の人も参加できる内容になっています。これらの講座は非常に人気で、特に「SAGA Smart Samurai」には初年度に700人、令和5年度も500人以上の申し込みがあったそうです。

SAGA Smart Samurai企業交流会より(2023年10月30日実施)
 SAGA Smart Ninja受講者交流会より(2023年9月30日実施)

このような「人材育成」についての大胆な取組とともに、育てた人材がビジネスの現場で活躍できるよう、「企業支援」についての取組も行っている点が要注目です。

深刻な人材流出問題、DXで食い止めたい

佐賀県ではかねてから、若い人達が県外に流出する割合が全国的に見ても高いことが深刻な課題でした。高校卒業後の県内進学率及び県内就職率は47都道府県でいずれもワースト5に入るそうです。このため、以前から製造業の生産現場の誘致などに積極的に取り組み、一定の成果をあげてきたものの、人材流出を食い止めるところまではなかなか至っていませんでした。その背景には、都市部と比べて賃金水準が低く、就業機会の多様性にも欠けることがあります。このようなことから、デジタルによる生産性向上を通じた賃金水準の改善や、ITなど若者や女性などにも親和性がある産業を興し、多様な仕事の場を作って人材の定着につなげようと取り組んでいるそうです。

Saga innovation & creative Lab.では、地域のビジネスにおいてデジタル技術の利活用が「常識」となり、その結果、地域産業の生産性が向上、様々なイノベーションが芽吹く地域となることを目指しているそうです。これまでの取組の結果、もともと意識が高く関心も強かった企業ではDXへの取組が進み、様々な事例が生まれてきた一方、まだまだ少なくない企業がDXについて「様子見」の状況にあり、いかにしてDXへの「はじめの一歩」を踏み出してもらうかが課題とのことでした。

かなりゴリゴリの企業支援――他の自治体だと無理かも?

このような課題もあって、Saga innovation & creative Lab.の活動は企業に「かなりゴリゴリ」にアタックしていくのだそう。これまでも、意欲や関心がある企業は産業スマート化センターに自ら相談し、取組を進めてきていますが、大多数の企業はそうもいきません。このため、令和4年度から新たに「DXコミュニケータ」として年間1000社を訪問、経営課題を聞き取ってデジタル利活用のアイディアを提供しているそうです。そのうえで、モデル事例になりそうな企業には「DXアクセラレータ」として数か月の専門家による伴走支援を提供、受託企業だけでなくラボを担当する県の職員もミーティングなどに参加し、フラットでフレンドリーな関係づくりを目指しています。こうしたコミュニケーションを重ね、地域の企業と深い関係を築き、やがてDXの話にもっと耳を傾けてくれるようになることを狙っています。

企業に対するDXコンサルテーション

こうした活動では、他県と比較して小規模で小回りの利く行政組織の利点を生かし、意思決定や行動をクイックにして、臨機応変な対応を行ってきました。「組織が大きく複雑な自治体だと、例えば部署で細分化されたり、意思決定の階層が増えたりすることで、佐賀県のようなアプローチは到底、難しいのではないか」と、佐賀県労働部産業DX・スタートアップ総括監の北村 和人氏は言います。実際、令和5年度も県外の自治体から19件の視察を受け入れたそうですが、佐賀県ほど素早く臨機応変な対応を行っている自治体はあまり聞いたことがないそう。フレキシビリティが求められる個別支援に重点を置いた取組は、個々の担当者には負荷もそれなりに大きく、この点での課題はありますが、他方で様々な業種・業態でのDX事例の創出や起業家等の県外でのアワード受賞などの成果が出ていることもあり、今のところは「佐賀県だからこそできること」として重視しているとのことです。

また、このような活動を通じて、県内・外の支援側の事業者も増え、それらが互いに競い、学びあう環境を構築してきました。例えば事業受託者を一堂に集めた状況報告会やチャットツールでの日々のコミュニケーション環境の構築など。これらがDX事業における支援の質向上にもつながっているそうです。 

地道な活動が多くの講座応募者につながった

上記のような企業支援の中で、企業関係者から「担い手がいない」という声があがり、「SAGA Smart Samurai」や「SAGA Smart Ninja」といった人材育成講座を企画することになったそうです。ただ、佐賀県の人口規模で定員100名を集めるのはなかなか至難の技…ということで、参加者の募集に当たっては「地上戦」と「空中戦」を併用した地道で熱心な集客を行っています。うち、前者(地上戦)としては、例えば企業を訪問したり、県内の市町役場にお願いしたり、ハローワークにブースを設けるなど。他方、後者(空中戦)としては、SNSやWebサイト、メールマガジン、新聞広告などなど。

これらを経て集まった講座の参加者は30~40代のプログラミング初心者が多いそう。そして、参加した多くの人たちが勤めている会社で知識を活用し、社内のDXへの関心を高める、ひいてはDXを推進してくれることを期待しているとのことでした。 

稼ぐことがDX推進の原動力に

これらの活動を通じて、産業スマート化センターの利用者数も年間で3500人を超え、IT・DX人材もこれまで700人ほど育成。DX事例は令和5年度で50事例を突破することとなりました。
・今後の展開
今後はこれまでのような活動を継続しつつ、デジタルを「稼げるもの」にしていくことがカギ、とのこと。このため、今後、「デジタルで稼ぐ」ことに関心がある企業経営者のコミュニティづくりなど、新たな打ち手も考えているそうです。

スタートアップ交流会「MIX NUTS BAR」(2023年7月18日)より
 スマート化センターによる「ChatGPTセミナー」(2024年1月30日)より

セミナーでは女性の参加者が目立つ

一般的に、企業関連(B to C)の情報拡散においてはFacebookやX(旧Twitter)がよく用いられます。ところが、SAGA Smart Samuraiについては「Instagramの告知を見て来た」という声が最も多かったそう。Instagramでの拡散は当初、できる限り間口を広げるための施策の1つでしかなく、いい意味で予想外の結果であったそうです。実際、参加者も女性が多くを占めており、男性以上に雇用機会が限られている女性の「スキルを身に着けて新しい可能性を切り開きたい」といったニーズの高さがうかがえます。

 

 


佐賀県DX推進ラボの事務局を務める、Saga innovation & creative Lab.は、2018年開設の佐賀県産業スマート化センターをハブに県内企業のDX推進に取り組んでいます。センターでの個別相談やマッチング、各種セミナーでの啓発、企業訪問、伴走支援といった企業支援の側と、 DX人材育成講座およびエンジニアの副業・起業コミュニティといった人材育成の側との両面からアプローチ。さらに、別途取り組んでいるスタートアップ支援Startup Ecosystem SAGAとも連携し、活動しています。

問い合わせ先
Saga innovation & creative Lab.(佐賀県産業労働部産業DX・スタートアップ推進グループ)
電話:0952-25-7586 e-mail:innovation@pref.saga.lg.jp
Facebook Page:https://www.facebook.com/SagaIClab
所在地:〒840-8570 佐賀県佐賀市城内一丁目1番59号(佐賀県庁新行政棟9階) 

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