IoTでものづくり中小企業の努力を収益に直結、地元企業の未来も拓け!――直方市IoT推進ラボ

2024/04/22(月)

直方市IoT推進ラボの事務局を担う直方市は、先進的IT技術を活用した課題解決に関する実証事業を支援する補助金制度を令和2年度から令和4年度まで実施しています。この制度は世界的なパンデミックが発生するような不確実性の高い社会において先進的IT技術を活用した課題解決の取り組みを推進するために企画しました。

今回紹介するのは、同制度を活用した直方市内の直方精機株式会社による取り組みです。直方精機は主に自動車関連の部品および金型の製造に携わっています。プレスや溶接、表面処理などさまざまな工程を、外部パートナー企業と協調しながら行っています。

同社では、工場で稼働する工作機械の稼働状況をリアルタイムに経営者が把握できるIoTシステムの開発と実証を行いました。この仕組みは、既存設備をリプレイスすることなく、後付けでシステムを実装したことも大きな特色です。

この事例では、生産現場において過剰な在庫を抱えずに、効率的な生産を行うための仕組みを作ることと、経営者が経営判断を迅速かつタイミングよく行うための情報を的確に把握するための仕組みを作りました。

この事例は同社社長である藤永勝巳氏が過去に大学院で学んでいた当時に執筆した論文「内的成長要素の追求による価値創造」をベースにして、実証事業の計画を構築しました。

現場の皆の努力と知恵を収益に直結させたい

かつて藤永氏は、大手企業から発注を受け、「顧客から指示されるQCDに従ってモノを収めていけば、この先も食べていける」といった考え方にも疑問を感じていたといいます。自分たちが提供する価値について自らが定義できなければ、顧客があくまで自社の都合で考えるQCDを頼りに、自分たちでは未来の見通しが立てられないままずっと仕事をしていかなければならなくなってしまいます。また経験や勘だよりの仕事では、自分や皆の努力や知恵がなかなか収益向上に直結しづらいと藤永氏は考えていました。

大学院で経営について学ぼうと奮起したのも、そうした従来の日本の中小企業におけるものづくりらしい仕事のやり方への疑問がきっかけであったそうです。直方精機では、藤永氏がそうした課題に真摯に向き合って論文で考察した、中小ものづくり企業が収益向上を実現するための考え方の具現化をしたいと考えていました。

直方市産業建設部商工観光課産業イノベーション推進係の米澤隆司氏は、藤永氏からそうした相談を受け、二人で試行錯誤をしながら、具体的にはどういう活動をすればよいのか議論と検討を重ねました。さらにその計画に、直方市内の企業数社に参画してもらうことにしました。藤永氏と米澤氏は、この取り組みをぜひとも成功させて、直方市内の企業に横展開しようと考えたからです。

現場にいる人や工作機械の状況は、その場にいない人には、現場から報告がない限りはすぐに把握できない――、これまでのモノづくりの現場では至極、当たり前といえることでした。しかし藤永氏は、工作機械の異常が発生した場合、現場から報告を受けてから対応していれば、経営判断が遅くなり、かつその後の経営にも大きな影響が生じると考えたのです。また、現場担当が、多忙な中、手作業で記録する報告書や日報などでは、記録不備が発生する恐れは大いにあり、そうしたヒューマンエラーが積み重なり、表面上では「原因不明」とされる不良が発生している可能性も考えられました。

人, 建物, 男, 立つ が含まれている画像自動的に生成された説明
従来の現場での報告のイメージ

さらに今回は、このような課題を解消するために新しい工作機械を購入するのではなく、すでに保有している工作機械をIoT化させることで低コストを実現させることも重要でした。中小企業の多い直方市内の産業特性を踏まえると「低コスト」であることは必須条件であると考えたのです。よって新しいシステムを導入して生産現場全体を再構築するようなものではなく、現在の生産環境をできる限り踏まえた仕組みにすることで、導入の際の現場の負荷を下げることも狙いとなりました。

直方市内企業が集まって、中小ものづくりのIoTシステムを実現

低コスト化を実現するために、すでに工作機械に内蔵されているPLC(Programmable Logic Controller)の情報を出力するための装置と、そこから出力された情報を遠隔の端末に表示させるためのプログラムを開発しました。

この取り組みを実現するために、首都圏や関西圏のような大都市での先進的な取り組みをそのまま導入するのではなく、「自分たちの課題について、地域特性も踏まえながら、自分たちで考える」、直方市に関連する企業を主体としたプロジェクトメンバーも結成しました。システムの開発については、組み込みIoTに強い都内企業で、直方市内に事業拠点があるIT企業のアドバンテック社がかかわりました。

このシステムを導入したことで、直方精機社内の工作機械の稼働状況をすぐさま把握できるようになり、計画通りに作業が実施されているか確認できるようになったとともに、問題が生じた場合にも適時対応ができるようになりました。さらに、異常がなぜ、いつ発生したのかについても、記録データを見れば、生産停滞の理由・不良の理由を把握でき、素早い対処が可能になりました。

ダイアグラム低い精度で自動的に生成された説明
導入されたシステム:生産管理のデータ、ゲートウェイPCとPLCから収集

モニターの前に立っている男性低い精度で自動的に生成された説明
導入したシステムの使用イメージ:現場の外からのモニタリング

この実証実験の結果を、アドバンテックが主催したカンファレンスで紹介したところ、自動車関連企業からも現場見学希望があり、欧米企業からも注目されることになりました。

さらに社内でデータ活用を拡大、さらに……

今後は直方精機社内の全機に装置を搭載し、さらに集めたデータを分析して、生産管理だけでなく労務管理などの経営判断にも活かしていきたいということです。もちろん、タブレット端末やスマートフォンを活用することも考えています。

また他の業種でも導入できるような汎用的な経営管理システムを構築することを目指しており、経営者の経営判断を助けることができる指標として活用できる新しい経営管理システムや人事評価システムの実現を検討していくということです。「収益に直結しない」といわれてしまう間接業務の付加価値が可視化でき、事務職にかかわる人たちの能力や努力が公平に評価できるようになると考えているそうです。

藤永氏は、このシステムが今後、同社や直方市内の企業で発展していきながら作り上げる事業環境が、現場で働く人たちの元気となって、さらに人材や働き方にも多様性が生まれていくと考えています。ひいてはそれが、中小のものづくり企業が悩まされている人手不足解消にもつながり、働く人たちの仕事や生活もよりよいものになっていくことを願っているということでした。

 

 


直方市IoT推進ラボは、近年、急速に発達するIT技術(IoT、AI、ブロックチェーンなど)を活用して企業等の生産性の向上や競争力の強化の取り組みを支援するため、会員企業と共にIT技術の普及や大学などと地域の課題解決のための研究開発を行っています。

直方市IoT推進ラボの取組みはこちら

 

問い合わせ先
直方市IoT推進ラボ、直方市産業建設部商工観光課産業イノベーション推進係
担当 米澤 隆司
TEL 0949-25-2155
E-mail n-ino@city.nogata.lg.jp

カテゴリー Category

アーカイブ Archive

地域DX推進ラボ数

38

地方版IoT推進ラボ数

72

おすすめ記事 Recommend

人気記事 Popular

リンクバナー Link banner

リンクバナー一覧