IoTを導入したい企業と支援したい企業、一緒になって本気で学ぶ研修(長野県IoT推進ラボ)
公開日:
2023年3月23日(木)
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本州のちょうど真ん中に位置する長野県は、幕末以降に養蚕や製糸業が発展し、それを基礎にして機械製造業などが育ちました。県内の産業は、戦中・戦後の社会情勢や需要の変化に伴い、産業機械や半導体、情報通信などにシフトしていきました。
首都圏の企業と比較すると人件費等の面で有利な傾向があるため、大手企業から仕事を請け負う企業や協力会社等も多く存在しています。
長野県IoT推進ラボが置かれている公益財団法人長野県産業振興機構が推進する「AI・IoT等利活用促進プラットフォーム」は、県内の中小企業等がIoT活用による生産性向上やDXを支援するため、様々な相談に対応し、ITベンダーとのマッチング、セミナーや研修等の人材育成にも取り組んでいるとのことです。
単なるツール導入で終わらないようにするために
長野県IoTラボには、大手IT企業において実務やマネジメント等の経験が豊富な2名の「産業DXコーディネーター」が配置されていて、様々な相談に対応可能であることが特徴のひとつです(富士ゼロックス株式会社(現、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社)等出身の角田孝氏、株式会社電算等出身でコンサルティング会社を経営する西村元男氏)。
現状では製造業からの相談が最も多いということですが、それに限定しているわけではなく、サービス業や観光等、幅広い産業分野を対象に相談を受けているということです。
DXやデジタル化の相談に関しては、長野県産業振興機構のWebサイトやメールマガジン、セミナーなどで概要を案内し、電子メールや電話などで受付をしています。また、同じ建物内にある長野県よろず支援拠点をはじめ、地域の商工会議所、商工会、金融機関等から、相談を希望する企業を紹介されることも多いそうです。
企業から相談を受けると、産業DXコーディネーターが実際に現場を見てアドバイスすると共に、見聞きしたことを元に要件を整理し、解決につながる技術を持っているITベンダー等とマッチングします。コロナ禍においては、テレワーク関連の相談が急増したそうです。
「今、世の中にはIoTをはじめ、AIやDXに関連するITツールが溢れていて、その気になればすぐにでも導入が可能です。一方で、自社の課題解決のためにITツールをどう活用するのかといった視点も必要です。我々支援する側も、企業ごとの課題をよく理解する必要があり、一朝一夕にはできないことが難しい」と西村氏は述べています。
IoT導入手法に関する研修(後述)も同様で、単なるツール導入で終わらないよう、受講者に課題解決の考え方を身に付けてもらえる内容になっているということです。
IoTを活用したい企業に、本気の解決策を提案する研修
長野県IoT推進ラボでは、県内中小企業等の人材を対象に、デジタル技術を活用するためのスキル修得やマインドの醸成などを目的に、セミナーや研修会等を実施しています。その中の1つが、「IoT導入研修」です。
IoT導入研修は、IoTを活用した「見える化」「改善・管理」「付加価値創出」についての座学と演習、実際の製造現場をモデルとした課題抽出や解決手段の検討体験を通して実践的なIoT導入手法を習得するものです。これまで毎年1回、長野市、伊那市、上田市、岡谷市と、各地で開催しています。
受講者は、研修で学んだことを持ち帰り、自社で実践してもらうことを目標にしています。4回目となった2022年(令和4年)度は、9月~11月にかけての9日間、岡谷市内で開催し、受講者は製造業、ITベンダー、金融機関、コンサル業等の多彩な顔ぶれだったそうです。
この研修では、最初の2日間で、「IoTを使えば、どういうことができるのか」「どうやって導入を進めればいいのか」等を学びます。3日目はIoTツールの種類や活用方法等を幅広く学びます。4日目は、長野県内のモデル企業を訪問し、工場などの現場を受講者が隅々まで見て回りながら、業務の流れを詳細に把握します。
さらに、現場の人たちや経営層から、課題と感じていることをヒアリングします。その後は、研修の3日間の学びを生かして、モデル企業の課題を解決するために、IoTをどう活用したらいいかグループごとに検討し、提案書をまとめ、9日目にモデル企業の経営層に対してプレゼンテーションします。「研修」と言っても、模擬演習や勉強ではない、課題解決のための本気の提案が出てきます。
ここでいう「モデル」は、IoT活用の先進モデルという意味ではなく、自社の課題を捉え、IoTを活用して解決に取り組む、現在進行形のモデル企業のことです。モデル企業は、他の産業支援機関・窓口や経営者が所属する団体等からの紹介があった企業のうち、秘密保持を条件に、モデルになることを了承してくれた企業です。
自社の状況を外部視点で客観視してもらうことで、社内の視点だけでは見えにくい課題に気付く、具体的な解決策の提案が受けられる、自社に合ったITベンダーと出合う機会が得られるなど、モデル企業になるメリットはたくさんあります。
「これまで、モデル企業に打診する際に、研修の趣旨を説明すると、多くの企業で積極的にご参加いただけています。経営者の、自社をよりよくしていこうという思いに、研修の趣旨が良く合っているからだと思います」と西村氏は言います。
受講者には、IoTを導入したい現場側企業と、IoTツールの導入支援や提供をしたい側の企業、どちらもいます。支援側は、ITベンダーだけではなく、IoT導入をコンサルする企業や行政組織、金融機関の人もいます。導入したい側の人たちは、IoTの基礎知識や具体的な活用法が学べ、支援したい側の人たちは自分たちの技術やサービスを使うユーザーの事情が学べるようになっており、この仕組みもとても理にかなっていることがうかがえます。
この取り組みをより確かなものにするため、例えば研修の要約版を工業系の教育機関で紹介する機会を設けられないかなど、検討を進めているということでした。
リアルな展示会出展など生かして、より広報に力を入れたい
今後の研修の課題の1つとして、研修で提案を受けたモデル企業が実際のIoT導入等につなげてもらえる率をさらに高めたいと考えているとのこと。こちらについては引き続き、モデル企業や受講者の声を踏まえて研修内容に改善を加えていくということです。
また、推進ラボの取り組み内容は個別には成果が上がっているものの、県内全域への波及という点ではまだまだ限定的だと考えているそう。これまでの取り組み事例を分かりやすい形で紹介する広報資料やセミナーなどで露出を増やしたりIoT導入手法に関する研修を複数年に渡って地域を変えて実施したりなど、広範囲に波及するよう取り組んでいるそうです。
さらに、県内だけでなく、県外向けに取り組み内容を広く知ってもらうことも重要だと考えているとのこと。特に、今年度CEATEC のIPAブース内で出展したことは、様々な効果があったとのことです。CEATECでのブース出展の準備を担当した長野県産業振興機構の中村繁之氏は、このように述べています。
「われわれは産業支援機関であるため、その場で何か商談がまとまるということはありませんが、いろいろな方にお会いし、ラボの取り組みを紹介したり、意見交換できたことは収穫です。また、長野県の施策で機構が行っている補助事業を利用したITベンダーの成果や、長野県が取り組んでいるIT企業や人材の誘致に関する情報を発信できたことも有意義でした」。
展示会で知り合った企業にはITに強い人材の派遣会社もあり、早速IT人材を探している長野県内の企業に紹介し、派遣に向けて打ち合わせが進んでいるそうです。
長野県内でのフィジカルな活動にはもちろん限界があり、首都圏などに出てリアルにたくさんの人と会う機会は重要です。少しずつ落ち着きを見せているコロナ禍で、リアル展示会の開催も徐々に増えてきています。今後も展示会出展などを通じて、広報に力を入れていきたいと考えているそうです。
首都圏の企業と比較すると人件費等の面で有利な傾向があるため、大手企業から仕事を請け負う企業や協力会社等も多く存在しています。
長野県IoT推進ラボが置かれている公益財団法人長野県産業振興機構が推進する「AI・IoT等利活用促進プラットフォーム」は、県内の中小企業等がIoT活用による生産性向上やDXを支援するため、様々な相談に対応し、ITベンダーとのマッチング、セミナーや研修等の人材育成にも取り組んでいるとのことです。
単なるツール導入で終わらないようにするために
長野県IoTラボには、大手IT企業において実務やマネジメント等の経験が豊富な2名の「産業DXコーディネーター」が配置されていて、様々な相談に対応可能であることが特徴のひとつです(富士ゼロックス株式会社(現、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社)等出身の角田孝氏、株式会社電算等出身でコンサルティング会社を経営する西村元男氏)。
現状では製造業からの相談が最も多いということですが、それに限定しているわけではなく、サービス業や観光等、幅広い産業分野を対象に相談を受けているということです。
DXやデジタル化の相談に関しては、長野県産業振興機構のWebサイトやメールマガジン、セミナーなどで概要を案内し、電子メールや電話などで受付をしています。また、同じ建物内にある長野県よろず支援拠点をはじめ、地域の商工会議所、商工会、金融機関等から、相談を希望する企業を紹介されることも多いそうです。
企業から相談を受けると、産業DXコーディネーターが実際に現場を見てアドバイスすると共に、見聞きしたことを元に要件を整理し、解決につながる技術を持っているITベンダー等とマッチングします。コロナ禍においては、テレワーク関連の相談が急増したそうです。
「今、世の中にはIoTをはじめ、AIやDXに関連するITツールが溢れていて、その気になればすぐにでも導入が可能です。一方で、自社の課題解決のためにITツールをどう活用するのかといった視点も必要です。我々支援する側も、企業ごとの課題をよく理解する必要があり、一朝一夕にはできないことが難しい」と西村氏は述べています。
IoT導入手法に関する研修(後述)も同様で、単なるツール導入で終わらないよう、受講者に課題解決の考え方を身に付けてもらえる内容になっているということです。
IoTを活用したい企業に、本気の解決策を提案する研修
長野県IoT推進ラボでは、県内中小企業等の人材を対象に、デジタル技術を活用するためのスキル修得やマインドの醸成などを目的に、セミナーや研修会等を実施しています。その中の1つが、「IoT導入研修」です。
研修の様子
IoT導入研修は、IoTを活用した「見える化」「改善・管理」「付加価値創出」についての座学と演習、実際の製造現場をモデルとした課題抽出や解決手段の検討体験を通して実践的なIoT導入手法を習得するものです。これまで毎年1回、長野市、伊那市、上田市、岡谷市と、各地で開催しています。
受講者は、研修で学んだことを持ち帰り、自社で実践してもらうことを目標にしています。4回目となった2022年(令和4年)度は、9月~11月にかけての9日間、岡谷市内で開催し、受講者は製造業、ITベンダー、金融機関、コンサル業等の多彩な顔ぶれだったそうです。
この研修では、最初の2日間で、「IoTを使えば、どういうことができるのか」「どうやって導入を進めればいいのか」等を学びます。3日目はIoTツールの種類や活用方法等を幅広く学びます。4日目は、長野県内のモデル企業を訪問し、工場などの現場を受講者が隅々まで見て回りながら、業務の流れを詳細に把握します。
さらに、現場の人たちや経営層から、課題と感じていることをヒアリングします。その後は、研修の3日間の学びを生かして、モデル企業の課題を解決するために、IoTをどう活用したらいいかグループごとに検討し、提案書をまとめ、9日目にモデル企業の経営層に対してプレゼンテーションします。「研修」と言っても、模擬演習や勉強ではない、課題解決のための本気の提案が出てきます。
ここでいう「モデル」は、IoT活用の先進モデルという意味ではなく、自社の課題を捉え、IoTを活用して解決に取り組む、現在進行形のモデル企業のことです。モデル企業は、他の産業支援機関・窓口や経営者が所属する団体等からの紹介があった企業のうち、秘密保持を条件に、モデルになることを了承してくれた企業です。
自社の状況を外部視点で客観視してもらうことで、社内の視点だけでは見えにくい課題に気付く、具体的な解決策の提案が受けられる、自社に合ったITベンダーと出合う機会が得られるなど、モデル企業になるメリットはたくさんあります。
「これまで、モデル企業に打診する際に、研修の趣旨を説明すると、多くの企業で積極的にご参加いただけています。経営者の、自社をよりよくしていこうという思いに、研修の趣旨が良く合っているからだと思います」と西村氏は言います。
受講者には、IoTを導入したい現場側企業と、IoTツールの導入支援や提供をしたい側の企業、どちらもいます。支援側は、ITベンダーだけではなく、IoT導入をコンサルする企業や行政組織、金融機関の人もいます。導入したい側の人たちは、IoTの基礎知識や具体的な活用法が学べ、支援したい側の人たちは自分たちの技術やサービスを使うユーザーの事情が学べるようになっており、この仕組みもとても理にかなっていることがうかがえます。
この取り組みをより確かなものにするため、例えば研修の要約版を工業系の教育機関で紹介する機会を設けられないかなど、検討を進めているということでした。
リアルな展示会出展など生かして、より広報に力を入れたい
今後の研修の課題の1つとして、研修で提案を受けたモデル企業が実際のIoT導入等につなげてもらえる率をさらに高めたいと考えているとのこと。こちらについては引き続き、モデル企業や受講者の声を踏まえて研修内容に改善を加えていくということです。
また、推進ラボの取り組み内容は個別には成果が上がっているものの、県内全域への波及という点ではまだまだ限定的だと考えているそう。これまでの取り組み事例を分かりやすい形で紹介する広報資料やセミナーなどで露出を増やしたりIoT導入手法に関する研修を複数年に渡って地域を変えて実施したりなど、広範囲に波及するよう取り組んでいるそうです。
さらに、県内だけでなく、県外向けに取り組み内容を広く知ってもらうことも重要だと考えているとのこと。特に、今年度CEATEC のIPAブース内で出展したことは、様々な効果があったとのことです。CEATECでのブース出展の準備を担当した長野県産業振興機構の中村繁之氏は、このように述べています。
「われわれは産業支援機関であるため、その場で何か商談がまとまるということはありませんが、いろいろな方にお会いし、ラボの取り組みを紹介したり、意見交換できたことは収穫です。また、長野県の施策で機構が行っている補助事業を利用したITベンダーの成果や、長野県が取り組んでいるIT企業や人材の誘致に関する情報を発信できたことも有意義でした」。
展示会で知り合った企業にはITに強い人材の派遣会社もあり、早速IT人材を探している長野県内の企業に紹介し、派遣に向けて打ち合わせが進んでいるそうです。
長野県内でのフィジカルな活動にはもちろん限界があり、首都圏などに出てリアルにたくさんの人と会う機会は重要です。少しずつ落ち着きを見せているコロナ禍で、リアル展示会の開催も徐々に増えてきています。今後も展示会出展などを通じて、広報に力を入れていきたいと考えているそうです。