魅力ある北見のワイナリーのことをみんなに知ってほしい――北見地域DX推進ラボ

北海道は日本最大の醸造用ブドウの産地であり、十勝や富良野など南部から西部にかけたエリアにワイン産地が広がっています。オホーツク海側で、道東に位置する北見は、道内においてブドウおよびワインの産地としてはマイナーな存在であり、古くからブドウやワインの生産が行われてきた土地ではありませんでした。それには、「道内の他地域と比べて極めて寒冷でありながら、積雪量がやや控えめ」という、北見ならではの気候がブドウの生産に適さなかったことが理由だそう。しかし、その逆境を乗り越えて耐寒性のある「山幸」「清舞」といったブドウから、さわやかで個性あふれるワインの数々を生み出しています。

北見地域DX推進ラボでは、IoTを活用しワインの品質の安定化と醸造作業の効率化による生産性の向上と、「北見産ワイン」のブランディングによる地域の活性化を図っています。同ラボが今回支援したのは、北見市端野町の「ボスアグリワイナリー」と「インフィールドワイナリー」。それぞれの生い立ちや方向性も異なることから、「北見ワイン」というブランドを立たせるというよりは、小さなワイナリーのそれぞれの良さを大切にした事業を展開しています。

この2社に協力したのが、東京を本拠としながら北見市内に支店を置き、北見市と地方創生に係る連携協定を締結しているIT企業、株式会社アイエンター(以下「アイエンター」)。それぞれ別々の担当が付いて支援に奮闘しました。

デジタルの力で小規模生産者の負荷軽減

アイエンターの林氏が支援した、ボスアグリワイナリーは、まず2013年から北見市内でブドウ生産を開始、次いで2020年にワイン生産事業を開始しています。赤や白、微発泡など、ラインアップが充実した「桜夢雫」シリーズを展開。こちらでは、桜夢雫の微発泡ワイン製造の品質チェックをするための、ワイン瓶内圧データを確認するIoTシステムを開発しています。

草の上に置かれたワインボトルとグラス自動的に生成された説明
「桜夢雫」シリーズ

微発泡ワインは製造終盤に酵母により発泡させる工程があります。同ワイナリーでは、ワインの品質に大きく影響する発泡具合を、生産者がロットごとで数本抜き取って開栓して確認していました。評価に使用したワインは、そこで一生を終えることになります。生産数の少ない小規模ワイナリーにとって、それは原価の大きな圧迫となります。さらに生産者自身の目視や感覚だよりで行われなければならない評価は、時間的にも手間的にも大きな負荷がかかります。また発酵が過剰に進行し、製品搬送中に栓が空いてしまうといったトラブルも過去に起きていました。

そこで、ワイン瓶の内圧データを測定してクラウドにデータを収集し発泡具合をWebブラウザで可視化できるようにし、内圧値が上限値を越えたときにメールで通知を飛ばすという仕組みを作りました。これにより、まず評価のために開栓するワインは最小限に抑えられるようになりました。さらに、スマートフォンから、現場でなくても発泡状況が確認できるようになり、生産者の身体的・精神的負荷を軽減させることが可能になりました。可視化された結果も、生産者の方の感覚とぴったりであったそうです。

この仕組みは2024年1月より、ボスアグリワイナリーで運用が開始されていますが、今後は内圧に影響する気温の同時計測の検討や、空調コントロールとの連携の可能性も検討していくということでした。

屋内, テーブル, 座る, カウンター が含まれている画像自動的に生成された説明
無線内圧計版の装置(デジタル内圧計+ワイン瓶固定台)

北見発ワイナリーのブランディング戦略

インフィールドワイナリーは「オホーツク初」をうたい、2019年にワイン事業を開始。同ワイナリーは、黒毛和牛農家「未来ファーム」の一部門であり、肉料理に合うワインを開発しています。同ワイナリーでも北見市内でブドウを生産しています。こちらは、SNSやWebサイトを活用したブランディングを行いました。

石の壁の家中程度の精度で自動的に生成された説明
インフィールドワイナリー

北見市でワインを生産していることは、その歴史がまだ浅いことからも、市内に住む人たちにも、まだあまり知られていなかったそう。そこで、当地域ならではのイベントへの出展や、幅広い年齢層にリーチできるイベントを実施しています。

「お酒」のイベントというと、やはり大人が多く集まってきます。しかしながら地元の人たちに「ワイン造り」という文化を根付かせるには、地元の子どもたちにも知ってもらうこともカギになります。そこで、2023年8月には小学生を対象にした親子社会科見学イベントとして、ワイン生産のワークショップを開催し10組28名の参加があり、盛況であったということです。

人, 屋内, 天井, 民衆 が含まれている画像自動的に生成された説明

草の上にいる人たち自動的に生成された説明
親子社会科見学イベントより

さらに2024年2月には、「北見厳寒の焼き肉まつり」(厳寒焼肉)という、寒い屋外で七輪を並べ大勢で焼肉を楽しむお祭りに出店し、ホットワイン等の販売を行うとともに、オリジナルコースターやステッカーを製作し、インフィールドワイナリーの公式インスタグラムへのフォロー&いいねによるプレゼントキャンペーンを同時に展開するなど、知名度の向上に向け取り組みを進めました。ワインは250杯ほど売り上げています。現地では、「飲みやすくておいしい」と評判であったそう。

インフィールドワイナリーとしては、なるべく「広く・多くの人に」情報を届けるのではなく、1人1人にインフィールドワイナリーのワインの良さや想いについて理解してもらいたいと考えているそう。こうした活動を支援したアイエンターの伊藤氏としても、その考え方を尊重して企画していたということです。伊藤氏自身は、元飲食店経営者のコンサルタント。同氏の飲食店時代、来店者に料理を進める際にも、食材の生産者の思いを伝えることが有効であると感じていたそう。今後は、試飲会以外にも、生産者の想いを、地元の食品業や消費者などに伝えていくための企画を試行錯誤中ということです。

アイエンター林氏が非常に苦労したというのが、内圧測定するためのコネクター設計。林氏は、水産関係のIoTシステム開発の経験があり、「漏れ」の対策についても知見がありました。「ただし、水に限る」ということで、相手が気体な上、酵母由来であるということで、非常に手ごわかったとのこと。ボスアグリワイナリーからも実験用のワイン酵母を提供してもらい、協力していただいたそう。林氏自身にとっても技術者として新たな知見が得られたということでした。

 

 


北見地域DX推進ラボでは、豊かな自然環境を背景とした北方のまち独自の生活環境や産業にデジタルテクノロジーが浸透し、満足度と利便性の高い生活環境と、生産性と付加価値の高い産業の実現に向けた「オホーツクバレー」という構想をベースに、IT関連産業とデジタルテクノロジーを集積し、先端技術を有するIT企業と地元企業との連携を促進していくべく活動しています。

北見工業大学、進出企業、地元企業、地元金融機関等との産学官金連携の下、大学との共同研究により課題解決に向けた新たな製品の開発を行うとともにラボを構成する組織それぞれの多角的連携により、地域が抱える課題についてデジタル技術を活用した解決手段を創造し、実装につなげています。

問い合わせ先
北見地域DX推進ラボ事務局(北見市商工観光部 産業立地労政課)
〒090-8501 北海道北見市大通西3丁目1番地1
 TEL:0157.25.1210(直通)
 Mail:sangyo@city.kitami.lg.jp

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