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企業のIoT推進支援する側の事務局自身がIoT導入やってみた――神奈川県IoT推進ラボ

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神奈川県IoT推進ラボの事務局を務める、神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)が今回、取り組み事例として紹介するのは、IoT導入支援を行った企業の事例ではありません。KISTEC自身でのIoT導入の取り組みです。

KISTECでは2022年度に、現地の状況確認のため度々の出張が必要となっていた遠隔地(屋外)での測定に対して遠隔モニタリングとデータ転送のシステムを導入したり、手間のかかっていた実験・評価の作業に対してRPAを利用して自動化したりといったことに取り組みました。

KISTECには、海老名市内の「海老名本部」と、川崎市内の「溝の口支所」および「殿町支所」、そして横浜市内の「横浜相談窓口」の4拠点があります。今回紹介するのは、そのうちの海老名本部と溝の口支所での事例です。

企業のIoT推進を支援するKESTECだが、まずは自身もIoT推進しないと

主に産業技術や科学技術に関する研究開発、技術支援などの業務を行う機関であるKISTEC では、日々の業務での外出やコミュニケーションなどについて大きな制約があったコロナ禍で、自身の内部業務についてもIoT対応やデジタル化によって効率化する必要性を改めて認識することになったそうです。

 

【事例1】出張がままならなくなった――太陽電池の現地確認

まずKISTECにおいて、コロナ禍で大きな課題となっていたのは、当時、多くの企業や組織でも困っていただろう出張対応でした。KISTECでは、次世代太陽電池(ペロプスカイト太陽電池)の実用化に向けた研究を行っています。この研究では、海老名本部の敷地内の屋外にペロブスカイト太陽電池を設置し、屋外での耐久性を評価する「屋外暴露試験」を実施しています。さらに溝の口支所ではそのデータを活用した太陽電池に関するさまざまな実験を行っています。コロナ禍前では、海老名本部に溝の口支所に在籍する研究員が通い、太陽電池のデータを確認しに行っていたそう。そして、それがコロナ禍での移動制限でままならなくなったというわけでした。

またコロナ禍での問題以外にも、屋外暴露試験のデータや稼働状況などの確認がリアルタイムに行えるようになれば、実験業務の効率化や時間の有効活用が可能になり、かつシステムに問題が起こった際にも速やかに対応できるようになるといった効果も狙いました。

高額の投資をせず遠隔監視・遠隔操作・データ転送システムを作った

まず、海老名本部の屋外にあるペロブスカイト太陽電池付近にインターネット接続可能な監視カメラを設置しました。海老名本部の屋外にあるペロブスカイト太陽電池と屋内の測定機器は配管設備を通して接続されています。海老名本部の計測機器を制御しているPCと、溝の口支所のPCにリモートデスクトップを導入し、海老名本部のPCにアクセスできるようにしました。


データ転送、監視システムの概略

この事例では、溝の口支所に在籍し、この研究にかかわる研究員である川崎技術支援部の戸邉智之氏が自ら情報を調べ、周囲の方に聞きながら(配線作業などの一部では手をかりながら)、自分で準備から設置までしたとのこと。遠隔監視・遠隔操作・データ転送のシステム作製は、ワークステーションやサーバー購入など高額な設備を導入することなく、一般的なスペックのPCまた屋外監視カメラ、ホームルーター(モバイル回線でインターネットに接続する据置型ルータ)など汎用品を使用することで導入費を押さえました。また維持費はホームルーター2台の通信料で月額1万円以下だそうです。

この仕組みにより、月3回程度発生していた出張の大半が必要なくなるなど業務を効率化できたということでした。

取材当日の積雪中の遠隔監視映像

取材当日はあいにく積雪がありましたが、様々な気象条件での評価のため、太陽電池に積もる雪はあえて除去せずにデータを収集しているということでした。このような天候が悪い場合も、遠隔からリアルタイムにデータ収集が可能となりました。

 

【事例2】いい機会なので――作業量が多い手入力を自動化したい

もう1つは、コロナ禍で何か困っていたというよりは、「いい機会なので、手間がかかっていた作業を自動化しよう」と奮起して取り組んだ事例であったそうです。

KISTECの溝の口支所では、光触媒性能評価を行っていました。光触媒とは、光を吸収し、そのエネルギーを用いてさまざまな反応を起こす物質のこと。一般的には、食品や化粧品などで使用される酸化チタンがよく知られています。


レザズリンを用いた光触媒性能評価の概要

KISTECでは、試料に塗布した試薬のレザズリンが光触媒で還元されて、ブルーからピンクに変色する様を観察することで、光触媒の性能評価をしていました。このデータ収集をどうやっていたかといえば、作業担当者が、試料を撮影した写真を画面に表示して、色を判定したい個所を1つ1つマウスで囲んで、クリックして、データを取り込む作業を地道に行っていたそうです。この画像データのRGB値を割り出して光触媒の反応具合を判定するのです。画像データの収集はいわゆる単純作業ではありますが、定量評価でサンプル数が効いてくるため作業量も多くなります。それ故に、作業精度は作業担当者の集中力に左右され、採取し忘れや選択ミスなど、ヒューマンエラーも起こりがちでした。そうしたエラーは、評価結果の精度にも影響します。

この研究にかかわる研究員である川崎技術支援部の濱田健吾氏によれば、これまでは自動化しようとしても、手元の業務が忙しい中で、プログラミングを習得したり情報収集したりといったことはやはり負担となり、なかなか手が付けられていなかったということでした。

市販のRPAソフトウェアを導入

そこで、市販のRPAソフトウェアを導入し、データ取集の作業をソフトウェアに覚えさせて処理させることで自動化しました。ツールの導入や操作も、特に専門知識は不要で、簡単であったそうです。この事例についても情報収集から設置まで、この研究を担当する濱田氏自身が行っています。




 

RPAロボットに処理させる作業について

RPAの導入により3~4時間くらいかかっていた作業が、おおむね40分~1時間になったそう。RPAソフトウェアはサブスクリプションライセンスであり、今後も所内での需要に応じて費用をコントロールできるのも利点です。

なおRPAの事例については、濱田氏のもとに、RPAソフトウェア開発企業からの技術解説の執筆の依頼もあり、研究所の有意義な取り組みを広く知っていただく機会づくりにも貢献しました。

RPAは汎用性が高いため、KISTEC内の光触媒分野の研究など他業務への展開も試みているということでした。


支援する企業の気持ちに寄り添うための実践

今回のIoT導入事例にチャレンジしたKISTECの研究者の方々は、非IT領域の専門家です。自分でプログラムが書けるわけでもなく、通信ネットワークについて熟知しているわけでもありませんでした。今回は、そうした方々が、自らの業務の悩みを解消すべく、自ら情報を収集し、ツール選定し、そしてIoT導入を実践しています。

中小企業のIoT導入を支援する中で、必ずしもITに詳しくない方々が担当者になっていることも少なくありません。KISTEC内の業務へのデジタル技術導入は、ITやIoT分野の専門家らの手をなるべく借りずに進められましたが、あえてそうした理由は、所内での実践による学びが今後の企業への支援にも生かせるだろうとの期待があったためでした。また実践による経験で、IoTなどデジタル技術の導入に困っている方々の気持ちに寄り添うような提案や支援につながっていくだろう、ということでした。

IoTやIT分野を担当する企画部経営戦略課の水矢亨氏は、「もし自分自身が担当していたら、まずはプログラムを書こうと考えるであろうし、今回の事例のように、既存の汎用品をうまく組み合わせて利用する……という発想にはなかなか至らなかったように思う」と述べていました。

 

 


神奈川県IoT推進ラボの事務局を務める、神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)では、IoTを「知る」「試す」「使う」「育てる」「守る」をキーワードにした、中小企業のIoT技術導入に向けた支援を行っています。

問い合わせ先
神奈川県立産業技術総合研究所
企画部経営戦略課
Tel 046-236-1500(代表)
電子メール sm-keiei_senryaku@kistec.jp

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