AIやロボットの力で、復興最中にある仙台・東北の漁業を元気にしよう
2011年、東北と関東の太平洋沿側を中心に襲い掛かった、東日本大震災。東北の太平洋沿岸地域は仙台市も含めて、甚大な被害を受けました。今も復興の最中である東北が悩むのは、少子高齢化と人手不足、労働者不足といった問題です。
「震災がきっかけとなり、東北の太平洋沿岸地域を離れていってしまった人も多くいます」と東北大学IIS研究センター 特任教授である鹿野満氏は話します。特に人手不足といった問題が顕著なのは、漁業などの水産業であるといいます。津波に巻き込まれたり、その恐ろしさを目の当たりにしたりで、漁業をやめてしまった人も多数いるということです。
東北大学と仙台市内を拠点とするIT関連企業や仙台市、宮城県などの自治体、及び漁業関係者らは、「ITの力で、被災した地域の水産業を活性化し、地域に人を呼び戻す、合わせて仙台・東北に新たな産業を興す」ことを目指し、取り組みを続けています。
ベテランの知恵と勘による作業を自動化するには?
震災以来、東北大学IIS研究センターを中心とした産官学連携体で取り組む「ITペアリング復興」プロジェクトは、仙台市を含む東北沿岸部の被災地域がいまだ抱え続ける深刻な課題解決や、域内企業の活性化、雇用創出などに取り組んできました。
主なプロジェクトメンバーは、AI(人工知能)やトライボロジーなどの技術シーズを保有する東北大学、実用化に必要なAI・ロボット技術などの取り組み経験がある複数の有志企業、仙台市および宮城県などの自治体、気仙沼市魚市場など地方卸売り市場などの方々で構成されています。
宮城県内の漁港で、定置網などで水揚げされる魚は20~40種類であるといいます。その魚を選別する作業の大半は、地域内の高齢者や東南アジア諸国の技能実習生によって行われてきました。よって、後継者の不在や作業の担い手不足への対処が課題となっていました。
そこで同プロジェクトでは、従来、人の手で行われてきた作業の一部を自動化し、生産性を向上するための手段の1つとして、画像処理やAI、ロボットなどを活用した自動化システム開発に取り組んでいます。
まずは、定置網で水揚げするカツオなどの魚種の自動選別装置です。この装置では、コンベアで流れてくる魚の画像から、形状寸法や重心、情報を手掛かりに種別をつぎつぎと判別していく仕組みです。
さらに判別後の仕分けはロボットが行います。魚の表面は滑りやすく、かつ商品であるため、ロボットが拾い上げる際には傷つけないよう、繊細な動作を実現させるよう工夫しているということです。
また超音波エコーと画像AI判定技術を用いた、魚のメス・オス自動判別装置も開発しています。タラやサケなどはオスかメスによって市場での取引価格が大きく異なります。その判別は容易ではないため、ベテランの知識や独自ノウハウが駆使されてきた上、ミスをすれば売上額や市場での評価に大きく響いてきます。
そこで、その判別作業を、超音波を使ったシステムで、誰でも容易に行えるようにしました。その作業は、人の経験や勘による目視や手に持った感覚を頼りに行われてきましたが、それを超音波で魚の体内の生殖器周辺を直接観察して判別する方法に代替しました。
超音波エコーを備える装置のコンベアに魚を流していく方法や、ハンディタイプのエコーとスマートフォンを連携させた方法などを開発しています。さらに、画像認識AI技術を応用した、サバ種自動選別装置では、「マサバ」と「ゴマサバ」、およびそのハイブリット種を判別させています。宮城県や仙台では、石巻市内の金華山沖で秋から冬にかけて水揚げされる、脂が豊富で大きなマサバ「金華サバ」が名物食材です。
高価なものでは1匹1万円以上で取引されることもあるといいます。金華サバと他のサバの選別は、外観上での分かりやすい手掛かりが少ない故に困難で、やはりベテランの勘や感覚を頼りに行われてきました。「ベテランの人でも、8~9割程度の正解率」(鹿野氏)。そこでは、装置内のコンベアで送られてくるサバの外観画像を基に、種類を判別させるようにしました。
「震災復興」という強い志でつながる産官学連携
「IoT」や「AI」といったITのキーワードは、特に、身体や手を使う仕事が中心の漁業従事者や、人生の中でITに触れてこなかった期間の方がはるかに長い高齢者にとっては、ピンとこない、あるいはあまり興味がわかないのでは? といった懸念が思い浮かびます。
ITについて、当事者の方々の受け止め方について、鹿野氏はこのように述べています。「この震災復興における課題の深刻さ故か、地元の方々は自ら、身近な報道などから常にその解消手段を探しているような状況で、その中でAIなどの情報のこともキャッチしていらっしゃったようです。そのためか、前向きに受け止めてくださる方が多かったと感じます」。
地域の漁業関係者の方々とは、心を通わせたコミュニケーションを心がけ、漁業という業務への理解を深めながら、そこで抱える課題を客観的に把握しつつ、「共に課題を解決していこう」という気持ちもはぐくんだといいます。
また、私たちが普段、何気なく行っている、目や手を使った繊細な作業をロボットに移植して動作させる(ティーチングする)ことは、そう簡単にはいきません。「画像処理やAIといったソフトウェアと、カメラやロボットのハードウェア技術をうまく融合させることで、作業の精度を高めていくことが極めて重要」であると鹿野氏はいいます。
そこで、東北大学のAIや画像処理などの技術シーズと、仙台市内のIT企業らにおけるロボットの社会実装の経験を掛け合わせているとのことです。その技術は非常に先端かつ高度であり、その研究成果について学会発表や特許出願も積極的に行いながら、このプロジェクトにより地域活性化やアピールに生かしていけるよう、日々努力しているということです。