奈良県の中小企業が、得意の独立電源技術を活かしたIoT機器(どこでもIoT)を自社開発
公開日:
2022年3月25日(金)
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奈良県に本社を置くものづくり企業は約1800社あり、大規模な工場はほぼ県外資本の工場であるといいます。また加工食品、自動車部品等の小型部品といった大都市近郊型の生産拠点が多くを占めています。
地場産業としては、医薬品、建築材料、靴下、サンダルや紳士服などの履物、野球のグローブやランドセルなどの皮革製品、日本酒、プラスチック成形、機械金属部品加工などがあり、従業員数100人以下の中小企業が大半を占めているということです。
奈良県内の中小企業では、業務のデジタル化への関心が高まっており、推進に取り組む企業が増えてきている一方で、取り組むためのITスキルを持った人材やナレッジの不足などに悩まされています。
「変化に対応することを目的に、中小企業がデジタル技術としっかり向き合えるように、IoT、AI、3Dデータなどのデジタル技術の活用支援を行っています」と話すのは、奈良県産業振興総合センター 産業技術研究部IoT推進グループの林田平馬氏です。
奈良県産業振興総合センターが運営する奈良県IoT推進ラボでは、県内中小企業のIoT関連機器の製品化や、県内企業の持つニッチな技術や製品・サービスを生かすためのIoT関連機器の開発などを支援しています。技術セミナーによる最新の技術情報紹介、講師とのマッチング、開発中の技術的課題に対する技術相談などに対応しているということです。
奈良県内中小企業のデジタル化の実態調査
奈良県産業振興総合センターが、奈良県内の製造業等の企業を対象として2021年(令和3年)に実施した、「県内企業デジタル化実態調査」によれば、県内企業のデジタル化の推進について、「経営者が積極的/ある程度関与している」が57.8%、 「システム部門などに一任している」が12.6%となり、合計で70.4%の企業が何らかのデジタル化推進に取り組んでいるそうです。また、デジタル化の進展による既存ビジネスへの影響について、「好機と捉えている」企業が44.2%となり、「脅威と捉えている」企業の17.6%を上回ったそうです。一方で、約4割の企業は「影響がない」とも回答しており、「取り組みへの意識が二極化している」と林田氏は述べています。
またデジタル化推進人材の状況について、31.5%の企業ではデジタル化推進人材が不足していると回答しています。
詳しくは:「県内企業デジタル化実態調査」
https://www.pref.nara.jp/secure/261526/01_R3dejitarukatyousa_point.pdf
中小企業に最新のIoT、AI、3D技術の設備や研修を提供
奈良県内には、部品の加工などのいわゆる“下請け”の企業が多く、そのほとんどがマーケティングや設計などに消極的であるといいます。同センターへやってくる相談も、製品設計・開発よりは、検品や生産の課題に関することが目立っているとのことです。また、そうした企業では、人手不足や技術継承に悩み、それを乗り越えていなかければならない一方で、多品種中小ロット製造への対応が近年増えていることから、生産の自動化の難易度が高くなってしまうというジレンマを抱えていました。また、先に述べたようなIT系の人材やナレッジの不足 、自動化に取り組むための資金不足といった課題もあります。
奈良県IoT推進ラボでは、IoT、AI、3Dデータの活用を方針の軸として、生産工程の自動化・省力化を推進するための実証機器の提供、PoC立ち上げの支援を行っています。センター内には、もともとの「試験場」としての役割として担う上で備える、数多くの検査機器や加工機器を備えています。それに加えて、IoTやAI、3Dデータ技術に特化した「ならAIラボ」を特設して、目視検査や製品ピックアップなどの作業を代替させられる双腕型ロボット、画像処理や機械学習などに対応できる高性能なCPU/GPUを実装したコンピュータ、CADソフトウェア、光造形式の3Dプリンタ、3Dスキャナーや切削加工機、MR(複合現実)システムなどを備えています。
そうした機器の提供と併せ、技術講習会などを定期開催しています。高額になりがちな機材やシステムの提供で企業のコスト負担を減らしながら、セミナーや講習会で企業のITリテラシーの底上げを図る、関心があまり高くない企業へ啓蒙するなどの施策を行っているということです。
奈良県発「どこでもIoT」とは?
奈良県IoT推進ラボでは、県内で技術やサービスなどで強みを持つ企業に対し、ITやデジタル技術について知識を深めてもらって、IoTの活用事例を作ることにも取り組んでいます。この開発は、同社の警告灯で起こっていた蓄電池の過放電が原因による故障に着目したことから始まり、奈良県IoT推進ラボが技術支援や、パートナー企業の紹介を行いながら製品化を進めたということです。
各企業の事情を思いやって進めるIoT
IoTの技術支援に取り組む中で課題となったのが、「企業ごとや、企業内における、知識の差や取り組みへの意識の温度差に対して、どういう配慮や工夫をするか」であり、それが「難しい」と林田氏は言います。各企業とよく対話をしながら、企業の考えるスピード感と取り組みのスピード感の調整に気を使っているといいます。また、セミナーや研修をうまく紹介しながら、その差をなるべく減らすようにしているとのことです。
「セミナーのテーマ選びや講師選定も、参加者さんたちにとって“早すぎず・遅すぎず”、少しずつ新しい知識を習得してもらえるように工夫しています。参加者が少なかった回も、1年後に問い合わせいただくことがあり、うれしく思いました」(林田氏)。
また、県内企業の良いところが、新しい取り組みによって失われることがないように、「デジタル技術の導入を進めるためにはどうすべきか」を、常に意識して支援しているということです。
林田氏は、「今後も、どこでもIoTを誕生させた三ツ星産業のように、ニッチな技術を持つ県内企業とデジタル技術の組み合せで、新たな製品づくりやサービスに取り組む企業を増やしていきたい」と今後の抱負を述べています。