神社の勧請のように白山から全国に広がれ~! オープンイノベーション(白山市IoT推進ラボ)

2023/03/23(木)
石川県白山市は2005年に松任市、石川郡美川町、鶴来町、河内村、吉野谷村、鳥越村、尾口村、白峰村(松任市から白峰村までは旧地名)の1市2町5村による大規模合併で誕生した都市です。その結果、県内で金沢市に次いで人口が多くなっています。

白山市は南北に細長く、白山比咩神社付近でくびれたような形状をした土地です。日本海の旧松任市・鶴来町エリアには市街地が広がっており、南部には白山国立公園や獅子吼高原、手取峡谷など豊かな自然が広がります。

南部の山岳エリアには、2018年には、金沢工業大学 白山麓キャンパスが開設しました。そして同キャンパス内が、白山市IoT推進ラボの活動拠点です。同ラボではICTを活用した持続可能な里山都市の在り方について、「学び、実証実験、社会実装」というサイクルを通じて具現化する取り組みを進めています。
金沢工業大学 白山麓キャンパス


学んで遊んで地域課題解消のアイデアを出す、サトヤマカイギ
白山市IoT推進ラボは、金沢工業大学と白山市による「サトヤマカイギ」のプロジェクトチームが主体です。

サトヤマカイギは、石川県白山市の中山間地域をフィールドとして、経済・環境・社会の調和を図るためのビジネスエコシステムを創出する学びの場であり、その活動を通じて産官学民金連携によるオープンイノベーションを推進しています。創出されたイノベーションプロジェクトの伴走支援や、ビジネスエコシステムの事業化を図るファシリテーションも行っています。

2019年11月には「サヤマカイギvol.1」として、県内外の企業11社/15人を白山麓キャンパス内に集めて「白山麓の里山そのものをプロダクト化し、「里山エンタメ都市」というサービスを創造する」というテーマでアイデアソン合宿を開催しました。集まった企業の業種はIT企業やゼネコンなど、さまざまであったといいます。

開催初日には、金沢工業大学感動デザイン工学研究所の神宮英夫教授と同大建築学部の宮下智弘教授によるイノベーション創出に役立つ座学レクチャーが行われました。地元の温泉やバーベキュー、ジビエ料理などの当地の食事を楽しみながら、地元住民の方から白山地区の文化解説を受け、地域創成のためのアイデア出しやプレゼンテーションを実施しました。

温泉やバーベキューも、単に遊んでいるのではなく、地元の文化や自然へリスペクトを高め、地元住民との心の距離を縮めて相互理解を深めるための大事な活動の一環であるそう。

この回のサトヤマカイギでは、「超フットワークの軽い会社「仮想会社白山」、白山でのデートを感情診断してデータ化して格付けする「デートサイエンス」、25歳以下の若者を対象にした空き家活用のプログラム「U 25 NEO出稼ぎ」、お金以外の「情報」という対価で利用する新しいモビリティ「地域情報Uber」などユニークなアイデアが生まれました。
サヤマカイギの様子

参加企業は、「多くの企業が合理性を追求し、現状のビジネスにもはや余白がないと考える企業が、里山の自然にビジネスの余白がたっぷりとあると考えてくださっていました」と、金沢工業大学 産学連携局 次長の福田崇之氏は言います。


里山でデジタルを生かすには?
「同じ1つのハンカチも、ある人から見たら『ただのハンカチ』で、ある人から見たら『家族からもらった特別なハンカチ』であったりします。このように1つのものをいろいろな視点から見ることで、さまざまな価値が生まれます。そうした思想は、茶道における〝見立て“の文化ともつながり、日本人が得意とするところであると思います」と福田氏は、このような日本人ならではの思想で、文化や自然をつなぐ活動をしていけたらよいのではと考えているそう。

「サトヤマカイギでは、宮下教授が提唱する「関連学」講座を参加者の皆様に受講していただきます。その関連学をイメージする例として、例えば、古く薄汚れた別荘を所有していて、修繕費用がないために仕方なく放置している人がいました。一方で、少し遠くに、ビジネスをリタイアしたDIY好きの人たちがいました。

もしそこがつながれば、名もない別荘が、新しい価値を持って生まれ変わるかもしれません。チームビルディングがうまくいっていない企業が、ユニークな人材育成プログラムとして別荘の再生作業をするということもあり得るかもしれません。

さまざまな人が、少しずつ何かを持ち寄って、歩み寄ったり、トレードしたりしていけば、皆がハッピーになれるというエコシステムができるはずです」(福田氏)。

また社会の変化が激しく、少子高齢化が加速する今、効率的でスピーディーに、効果的に地域創成のエコシステムを作り上げるために、「地域側は、文化的なものや自然的なものをデジタルに置き換えていくことを進めていくのがよい」と福田氏は述べました。

例えば、地元の高齢者たちの頭の中にある思い出話をテキストデータにし、そのデータから、テキストマイニング等を用いて特徴量を抽出し、その特徴量や前後の文脈をアーティストと共有することで、地域の方々が日頃方大切にしておられる地域の文化を題材としたデジタルアート作品の創出が可能となります。

白山から流れ出る水の音や、神社に立つご神木など、自然と調和した暮らしを営む地域の人々の思いをアーティストとの連携からメタバース空間上にアート作品として可視化する。そうしたコンテンツが、地域に学びにくる子どもたちの教材になったり、海外からくる観光客に対してディープな日本を体験する場になったり、あるいはこれまで誰も思いつかなかったような活かし方があるのかもしれません。


この活動を継承していく、後世に語り継いでいくこと
そうして始まったサトヤマカイギでしたが、「中には、地方創生というキーワードを掲げ、結果として、補助金を活用した単発の技術的な実証事業になってしまうことや、補助金を獲得することが目的となってしまっている企業も見受けられ、地域の持続可能なあるべき姿の実現に向けた継続的な事業をいかにして推進するかが大きな課題となっています。」と福田氏は、この活動の継続の難しさについて述べました。

その課題を乗り越えるには、「地域と企業が対話を通じて、地方創生に対する価値観を共有すること」「相手の価値観を見極める粘り強いコミュニケーションを行うと同時に、新たなパートナーとの積極的な意見交換を継続的に実施すること」「学びと実証実験を行い、その成果をつなげて、新たなチームを創出することを、ひたすら粘り強く繰り返していくこと」が大事であると福田氏は述べています。

たとえデータやビジネスとしての成果ということではなくても、「誰か1人の頭の中だけでもいいのでその記憶が残り、それを次の活動につなげていことが大事」と福田氏は言います。

「過去のプロジェクトと向き合いながら、振り返りや実績も含めて、ちゃんと蓄積をしていく、あるいはその結果や事象をサトヤマカイギの中のリソースとして提供していく。そうすれば利活用したい方々もきっと出てきます。そうした仕組みづくりが重要であると考えています」(福田氏)
お寺でITC教育をする福田氏

もう1つ大事なことが、「ナラティブ(物語)の継承」であるとのことです、それは「新たな文化や突拍子もない夢を語ること」で、それをかなえるために、技術やデザインがあるはずであると福田氏は言います。

私たちがこれまでのビジネスの中で培った経験から、新しい事業を立ち上げる際に技術力や使い勝手といった機能面に注力しがちです。また、社会や市場の変化が早いこともあって、地域創成の実証実験においても「早く成果を出す」、つまり「早くお金にしよう」とします。

しかし、それでは地方創生は実現されません。まだ余白がいっぱいある白山の自然や文化(里山)ともっとつながり、経済との調和を図るエコシステムをじっくりと考えていく必要があると福田氏は言います。また、「つながる」ということは、必ずしも実地ではなくてもよく、リモートから繋がっても構わないと考えているとのことです。

「白山からサトヤマカイギを盛り上げて、経済・環境・社会の調和を図るビジネスエコシステムが白山信仰のように国内の他地域にも広がっていけばと思っています(笑)」(福田氏)
 

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