市民目線での地域課題解決とオープンイノベーションを目指して(藤枝市IoT推進ラボ)

2023/03/23(木)
静岡県藤枝市は、静岡県のほぼ中央に位置し、空港や高速道路など広域アクセス性が高く、豊かな自然あふれる中山間地域と活発な民間投資により都市機能が集積し賑わう中心市街地が近接する「ほどよく都会、ほどよく田舎」なまちです。またサッカーのまちとしての歴史も長い「蹴球都市」でもあり、長谷部誠さんや中山雅史さんといった有名サッカー選手を輩出しています。

藤枝総合運動公園の様子

藤枝市IoT推進ラボは、藤枝市内外の企業約100団体で構成する「藤枝ICTコンソーシアム」と藤枝市を中心とした産学官連携による推進組織でIoTをはじめとするデジタル技術を活用した産業競争力の強化や市民サービスの向上を目指しています。2020~2022(令和2~4)年度は、「藤枝市オープンイノベーション推進事業」と銘打ち、先端技術活用による地域課題解決の実証実験を実施しています。


地域課題を解消するオープンイノベーション
藤枝市IoT推進ラボでは、オープンイノベーションの推進により、地域課題の解決に取り組んでいることが特色です。異業種・異分野間の技術やアイデア、データなどを組み合わせることで、施策やサービスの革新につなげられるようにしているとのことです。

地元産業のイノベーションを期待し、新たな価値やサービスを生み出すベンチャー企業やスタートアップ企業の参画を促すことも狙いとしてあります。

オープンイノベーションの推進にあたっては、まず藤枝市役所の庁内各課へのヒアリングなどにより、抽出された地域課題からテーマを決めます。またテーマは、原則として「新しい生活様式」の視点による取り組みとしています。

テーマを数点決めた後に、全国の事業者に対してデジタルを生かした解決策の企画提案を募集します。応募が集まったら審査を実施し、選考を通過した企画について実証実験を行います。事業者の募集にあたり、藤枝市・静岡県内事業者との連携を要件にしていることも、持続可能な取組として実装につなげるための大事なポイントであるそうです。

選定された企画については藤枝市との共同実証実験ということで、実証フィールドや各種データの提供とともに、実証費用の半額、かつ最大200万円まで藤枝市が負担します。実装と事業化にしっかりつなげられるよう実証実験を行うことを重視しているとのことです。

実証実験において効果が認められたものは、藤枝市内での本格実装に向けて事業化し、サービスの枠組み検討、事業者間の調整、予算確保などに動くことになります。また事業提案にあたっては、地元企業や大学との連携を藤枝ICTコンソーシアムが支援しています。

オープンイノベーションの取り組みは3年ほど取り組んでいるそうですが、抽出されるテーマは健康管理、事故防止、観光、農業など多岐にわたるそうです。過去に実証実験まで進んだテーマとしては、橋梁点検業務の効率化、飲食店の混雑状況把握などがありました。


藤枝市における実証実験の取り組み
2020年度(令和2年度)に、藤枝市の4K重点施策(健康・教育・環境・危機管理)の取り組みの1つとして、食料品の購買履歴から栄養傾向を分析し、食生活の提案を行うアプリの実証実験を実施したということでした。
食生活提案アプリ「SIRU+」(シルタス)


4K重点施策の一つ「健康」をテーマにしたこの取り組みは、藤枝市ならではの健康課題への対応とのこと。「静岡県が発表したデータでは、県中部地区の中でも高血圧の人が非常に多い」と、藤枝市企画創生部情報デジタル推進課スマートシティ推進係の主幹 齋藤栄一郎氏は言います。

高血圧の要因は一つではないと思われますが、食生活の改善は、高血圧の課題解決につながると考え取組んだそうです。

2021年(令和3年)には、藤枝市と東京大学及び同大学発のベンチャー企業と共同で、センサーや携帯電話のGPSデータを用いた人流解析の実証実験を行いました。携帯電話のGPSデータを活用し、昼夜間の人口密度の変化や移動の状況、滞在時間など人流の特徴を分析することで、藤枝地区の再生に向けた計画策定に役立てようということでした。

蓮華寺池公園では、遊具設置箇所や滞留が発生する場所、園路の分岐点などにセンサーやIoT機器を設置し、来園者数や混雑状況を可視化することで、利便性の向上を目指しました。この件は、実証実験としては成功したものの、実装コストが課題になってしまったことから、業務で活用する機能を精査した上で実装可能なコストに収まるソリューションを導入しているとのことでした。


蓮華寺池公園の実証実験の様子

また2021年度には、「独居高齢者の見守り・災害情報等の伝達」というテーマで、スマートフォンを持っていない高齢者でも使いやすい、「ボタンを押すだけ」の災害情報伝達端末を使用した実証実験を実施。参加者からの評判はよかったものの、こちらも実装時のコストが課題になってしまい、課題解決に向けて継続した事業検討に入っているということです。

「ごみの戸別回収を対象とした、回収ルート最適化」では、高齢者や障害者を対象に行っている市の個別集荷サービスで、市内に点在する利用者の住居を運行する車両台数に応じて振り分けし、最短経路となるルート順をシステムで提示。

その情報を、収集車用ナビゲーションアプリと連動させて、ドライバーは画面に表示される順番に従って移動するだけでよくなるというものです。回収が済んだ時は簡単なタッチ操作でごみの量を記録できます。こちらは、2022年度中に実装を計画しています。
実証実験の様子

「イチゴ生産・出荷作業のスマート化」は、藤枝市の農林行政の担当者から挙がったテーマであったということです。収穫後のイチゴのパック詰めは非常にデリケートな作業で、特に若手作業者など経験が浅い人が行うと時間がかかってしまいます。

それを効率化できれば、作付面積が増やせるようになり生産数が高められるのではないかとの仮説を立て、ロボットアームを活用し効率化を高める提案が採用されました。

しかし「イチゴの詰め方には見栄えなどに配慮した事業者それぞれの工夫があり、それらのニーズを踏まえて作業をさせようとすると、技術的にはなかなか高い難易度になる。また、検証で使用したロボットアームでは、最小限の力であっても果実に傷がついてしまった」と齋藤氏。

いちご生産全体を捉えた課題設定ではあったが、個々の生産者の業務プロセスの効率化に、完全には合致しなかった例として捉えているそうです。

令和4年度については現在も実証実験が進行中で、成果発表もこれからであるということです。テーマとしては、以下に取り組んでいます。
 
  • 持続可能な地域づくりに向けた地域活動のデジタル化
  • 見守りロボットを活用し、住みなれた地域で安心して暮らせるようにしたい
  • 2023 大河ドラマ「どうする家康」を契機とした市内観光需要喚起
  • 自転車の出会い頭事故を無くすために!自転車が一時停止したくなる仕組み募集

もっと市民目線で実証実験を
プロセスの中で苦労したのが、最初の「地域課題の洗い出し」であるそうです。藤枝市役所の担当課職員へのヒアリングでは、どうしても地域課題よりは、「内部事務の効率化」といった業務上の課題が挙げられる傾向があるそう。

役所側が気づかない、または実際と異なる課題の捉え方もあるということです。

「例えば、スーパーが廃業して、最寄りのスーパーが遠くなってしまうことから『高齢者の移動』が課題になる。地域に確認し、少し離れたスーパーと結ぶオンデマンド交通の実証を行うも、人流解析をしてみたら実際は別のスーパーへの移動が多かったとか。別の地域では、高齢者の移動の課題解決を議論していたが、通学をしなければならない高校生など若い世代の移動手段も課題として顕在化してきた。そういうギャップですね」(齋藤氏)。

しかしながら地域課題の解決は、効果の具現化や、市民が新しいやり方に慣れるまで時間がかかるケースも。藤枝市のDX推進では、「市民」「まち」「市役所」の3つの領域でのデジタル化を同時に推進しており、市役所の業務の利便性を高めるということも、結局は地域課題の解消にもつながってくると考えているそうです。

来年度以降は、より市民が便利さを実感できる実証実験を進められるよう、課題設定のプロセスから、アイデアソンなどの機会を作り、市民に参画してもらうなど、何らかの手段で安全・快適・便利な市民生活につながる取組にしていきたいということでした。
 

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