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IoTでイチゴ農園の働き方改革(直方市IoT推進ラボ)

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直方市は、福岡県の北部・筑豊平野のほぼ中央に位置している、ハートの形をした都市です。市内の遠賀川流域の平坦地では土地利用型農業、山間部では内陸型気候による昼夜の気温差を生かしたイチゴなどの果樹栽培が行われています。直方市内では商標「あまおう」として親しまれるイチゴ「福岡S6号」の栽培が盛んです。


2019年(令和元年)度から、福岡県の直方市役所を中心として活動する直方市IoT推進ラボでは、行政課題や社会課題、産業課題を先進的なIT技術を活用して解決するため、さまざまな実証実験や研究開発を行っています。今後も研究開発を推進し、様々な産業分野における積極的なIoTイノベーションを目指しています。


都内企業との縁をつないだ直方市企業
2019年(令和元年)度から、ITの力を使った水害対策について研究や実証実験を行い、「遠隔監視樋門管理システム」を開発しました。またこのプロジェクトは直方市が主体となって動いていました。

今回紹介するのは、直方市の「先進的IT技術実証事業補助金事業」として取り組む、2021年(令和3年)度開始の「AI・IoT基盤などの先進技術を活用した農作業自動化プロジェクト」です。このプロジェクトは、直方市が「補助金を出す立場」であるので、補助金を受けた企業であるアドバンテックとローレルバンクマシンが主体ではあるものの、直方市職員も研究活動に参加していることが特色です。

アドバンテックは先の遠隔監視樋門管理システムの開発に携わった直方市の地場IT企業である一方、ローレルバンクマシンは東京都が本社拠点であり、九州エリアにも営業所はあったものの、直方市と直接縁があったわけではありませんでした。スマートフォンを活用したビニールハウス栽培向けIoTシステムの実験場(フィールド)を探していたローレルバンクマシンと直方市との縁をつないだのが、もともと同社が協業を検討していたアドバンテックでした。


国内の農家が抱える悩みを解決するIoT
近年、日本の農業における労働人口の減少や高齢化が進む中で、農業全体の継続性が大きな課題となっており、その解決策としてスマート農業が注目されています。この事業では、長年の経験から培った農家の暗黙知や熟練の技術を、ロボットやAIなどの先進技術で再現し、農作業を自動化・省力化する事を目指しています。

また、以下のような日本の農業が抱える慢性的な課題の解決を目指しています。
 
  • 農業従事者の高齢化
  • 若者の農業離れ
  • 収入の不安定さと収益性の低さ
  • 新規参入者の離農率の高さ

日本の農業が抱えるさまざまな課題を解決する手段として、IoT技術を活用して農業を行う「スマート農業」であり、本事業では、長年の経験から培った農家の暗黙知や熟練の技術を先進技術で再現し、農作業を自動化・省力化することを目指しています。

今回、このプロジェクトで取り組んだのが、イチゴ農業のIoT化です。「直方市内の農家も働き手の高齢化や継承者問題に悩んでいます。アドバンテックさんとローレルバンクマシンさんから相談された時も、非常に応援しがいのあるプロジェクトだと思いました」直方市役所 産業建設部商工観光課産業イノベーション推進係 係長の米澤隆司氏は言います。

ローレルバンクマシンは、作物の栽培から収穫までをカバーするシステムを構築したいと考えており、最終的にはロボットによる収穫の実現を目標としていました。ロボットに収穫させるには「高設栽培」と呼ばれる腰の高さ以上で栽培する作物が最適であろうと考えていたとのこと。

そのため、高設栽培で行われるイチゴ農園を今回のフィールドとして選んでいます。柔らかくて傷みやすく、かつヘタも付いている、ロボットハンドにとっては難易度が高いイチゴで高精度なピッキング技術を確立すれば、他の農作物に広く展開しやすくなります。

米澤氏が所属する部門は農業と直接かかわっていないため、同役所 農業振興課の担当者をつなぎ、地元のJA(農協)や福岡県庁にも協力してもらいながら実験に協力してもらえそうな農家を探してもらったということです。

このプロジェクトでは、「作業の自動化」「情報共有の簡易化」「データの活用」の3つを柱としました。イチゴを栽培するビニールハウス内外の環境センサーや二酸化炭素濃度センサー、温湿度センサーなどを設置し、クラウド上で各種データの管理ができるようにしています。

さらに灌水や屋根ビニールの巻き上げなど、ビニールハウス内の各種設備もスマートフォンやタブレットで、外出先や自宅など遠隔からでも操作できるようにしました。アプリ画面も、誰でも理解しやすいよう、分かりやすく工夫したそうです。

農業従事者の負担を軽減できるシステムを構築するための良い実証結果を得ることができたということです。

ビニールハウスの様子

今後は、農園で現行システムの運用を継続し、定期的に農業従事者からシステムの運用状況やいちご育成の状態をヒアリングしていきながら、見えてきた課題を解決していくということです。また、ハウスの盗難防止、獣害対策などのセキュリティーのシステムへの機能追加や、イチゴの自動収穫ロボットの実証実験についても現在検討しているとのことです。


なぜ直方なのか? という疑問
米澤氏は、この実証事業を行う目的を農業従事者に伝えるとともに、実証事業を行う事業者にも、農業現場に配慮してもらうよう相互の理解を深めることや納得してもらうことに苦労したと言います。また、農家にとっての命でもある農作物を用いることから、万が一、作物に被害が及んだ際の補償をどうするかについても事前にしっかり話し合ったそうです。

地元農家からは、「ロボットを利用した新たな取り組みを、なぜ直方でしたいのか」ということを尋ねられたことが印象的であったそうです。そうした問いかけに対し、米澤氏は「直方市には潤沢な予算も、プロジェクトに役立つ高度な技術もあまりないけれど、直方市発で農業の課題を解決する新たな挑戦に挑んで成功させ、こうした取り組みを市内に広げていきたい!」と自身の思いをぶつけます。

その思いが通じたのか、市内で唯一、あまおうの高設栽培を行う農家の方が実験場として手を挙げてくださったそうです。
作業中の様子
 
手を挙げてくださった農家の方は30代と、業界の中では比較的若め。将来、父親から農園経営を引き継ぐことになったことを考えても「このままでいいのか」と課題感を持っていたということです。イチゴは非常にデリケートな作物であり、作業の習熟にも時間がかかるそうです。

それにイチゴ栽培は1年中行われ、状態を丁寧に見守り続けて丁寧に管理しなければならないことから、イチゴ農家は休暇をなかなか取ることができないそうです。そのような職場であれば、特にワークライフバランスが重要視されるようになった今では、従業員を雇う際にもネックになります。

この実証に協力することが、いわば「イチゴ農家の働き方改革になる」と、協力を決めてくださったということです。

実証事業が始まった後も、実施する事業者と、実証場所を提供する農業従事者との綿密なコミュニケーションと、実証成果に関する積極的な広報を心がけたということです。

また予算や時間が限られる実証を成功させた秘訣には、「元からある設備をなるべく生かす」という樋門管理システム開発の時と同様の思想があります。暖房設備や潅水設備、天井ビニール巻き上げ機といった、もとから備え付けられていた農園の設備に外付けでセンサーや通信機を実装するようにしています。
 
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