「ひろしまサンドボックス」による道路施設に関する デジタルトランスフォーメーションの取り組みについて

ひろしまサンドボックス,道路施設における実証実験について最新の状況をお知らせします。

1 はじめに

社会資本の老朽化の進行や維持管理・更新費の増加,建設産業の担い手不足などの様々な課題が懸念される中,より効果的・効率的な維持管理が求められています。
広島県では,デジタルトランスフォーメーション(以下,「DX」とする)を推進する一環として,最新のデジタル技術を活用して,様々な地域課題や行政課題の解決を図るオープンな実証実験の場である「ひろしまサンドボックス」により,道路施設にフォーカスした3つのテーマ,「法面崩落の予測」,「路面性状の把握」,「除雪作業の支援」について,行政提案型の実証プロジェクトを行っています。
当課の「ひろしまサンドボックス」実証プロジェクトによるDXの取り組みについて紹介します。
「ひろしまサンドボックス」とは,作ってはならし、みんなが集まって創作を繰り返す「砂場」のように,業種・業態の垣根を越えて,共創で試行錯誤できるオープンな実証実験の場です。
図1.1.1 ひろしまサンドボックス
 

2 行政提案型の実証プロジェクト

「ひろしまサンドボックス」では,様々な産業・地域課題の解決を目指す自由提案型の実証プロジェクトや,県が抱える行政課題に対するソリューション提案を求める行政提案型の実証プロジェクト,ニューノーマル時代の常識を再定義するためのソリューションの開発・実証を支援するD-EGGS PROJECTに加え,ひろしまサンドボックス推進協議会の会員を対象としたサポートメニューの他,様々なオープンイノベーション企画を実施しています。当課では,令和元年10月に行政提案型により,3つのテーマについて公募型プロポーザルを実施しました。
3 公募型プロポーザルによる実証プロジェクトの選定
公募型プロポーザルにより県内外から「法面崩落の予測」,「除雪作業の支援」,「路面性状の把握」の3つのテーマで計28件の実証プロジェクトの応募があり,「課題の解決に寄与する提案か」,「革新的なソリューション提案か」,「コストや実現性を踏まえた提案か」などの審査項目について評価を行い,特に,「革新性の高い提案」や「高い実現性」などを評価し選定しました。
最終的には「法面崩落の予測」で4件,「除雪作業の支援」で2件,「路面性状の把握」で2件の計8件となりました。
 

4 3つのテーマの概要

4.1 法面崩落の予測

(1)現状・課題

県管理の道路法面は,斜面状況や構造物の変状の有無を週1回の道路巡視など,人の目により確認しており,法面崩落や落石は事前に予測し対応することは困難で,事後的な対応となることが多いといった課題があります。

(2)取組方針(必須技術)

画像解析技術やセンサー技術等を活用し法面崩落の前兆を把握することなどにより崩落を予測する技術や,道路法面の維持管理を支援する技術の構築を目指しています。

(3)第一段階の実証実験

「法面崩落の予測」では4件の実証実験を令和2年5月から開始しました。1件目はレーザー測量により取得した法面点群データから3D道路法面台帳を作成し,法面の経年変化や崩壊前兆を把握するとともに,AI解析による崩落危険度を評価する手法,2件目は路線バス等に搭載した通信機能付き小型カメラが撮影した法面画像データから,AI解析により崩落の前兆を把握する手法,3件目は,AI内蔵カメラ等を用いた定点監視により,法面崩落の前兆現象(小崩落,落石,音の検出など)を把握する手法,4件目は,人工衛星の合成開口レーダー(SAR)画像を活用し地表面の変動を面的に捉えることで,広域エリアでの崩落予測モデルを構築する手法であり,これら4つの手法について実証実験を実施しました。
 

4.2 除雪作業の支援

(1)現状・課題

除雪作業は,雪で覆われているマンホールなど道路周辺の障害物を避けながら除雪機械を運転する必要があるため,道路状況を熟知した,熟練のオペレータの技術に支えられているが,オペレータの高齢化や若手の担い手不足が課題となっています。
 

(2)取組方針(必須技術)

将来にわたって安定的な除雪体制を確保するため,経験の浅いオペレータであっても除雪作業を行うことが可能となる除雪支援技術の構築を目指しています。

(3) 第一段階の実証実験

「除雪作業の支援」では2件の実証実験を実施しています。1件目は,車両搭載型計測装置(MMS)のレーザーなどを用いて道路上障害物や道路路肩の位置を高精度に図化(道路の3D化)し,高精度の位置情報と連携させて除雪機械の運転支援を行う手法,2件目は,スマートフォンの位置情報による除雪機械の運転支援や日報等を自動化することによる事務作業の支援を行うものです。
なお,令和2年12月から実証実験を開始しており,令和3年3月まで実証実験を行うこととしています。
 

4.3 路面状態の把握

(1)現状・課題

道路の舗装の調査は,週1回の道路巡視や5年に1回の路面性状調査(ひび割れ率,わだち掘れ,平坦性)により行っています。本県が管理する道路延長は,約4,200kmと膨大な施設規模であるため,従来の調査手法にとらわれない,効率的かつ低廉な調査手法が必要となっています。

(2)取組方針(必須技術)

道路の舗装について,効率的かつ低廉な路面性状調査手法と路面陥没(穴ぼこ)を予測する技術の構築を目指しています。

(3)第一段階の実証実験の状況

「路面性状の把握」では2件の実証実験を令和2年5月から開始しました。1件目は,市販のカメラを車載し,その映像をAIにより解析を行うことで路面性状の把握及びポットホールの予測を行う手法,2件目は,道路巡視の車等にドライブレコーダーを設置し,取得した映像をリアルタイムでAIにより解析を行うことで路面性状を把握及びポットホールの予測を行う手法であり、これら2つの手法について実証実験を実施しました。
 

5 業務継続実施者の決定

「法面崩落の予測」および「路面性状の把握」の2つのテーマによる計6件の提案について,令和2年11月で第一段階の実証実験を終了しました。課題を解決する効果が高い提案について継続して取り組みを進めるため,12月に業務結果評価委員会を開催し,実証実験の成果と業務を継続する場合の企画提案等により審査を行い,継続して取り組みを進める提案者を決定しました。

 

 

6 継続実施業務の概要(法面崩落の予測)

法面崩壊の予測における継続する業務の1件目は,3D道路法面台帳を用いて,法面の経年変化や崩壊前兆を把握するとともに,AI解析による崩落危険度を評価するものです。
3D道路法面台帳を用いることにより,「GISを活用して管理することができ,法面の経年変化を管理する上で、様々な情報を重ね合わせて関連付け,相関関係や傾向を可視化が可能となること」,「面的に斜面状況を把握しておくことで特定の観測箇所以外の法面の経年変化も評価することが可能となること」,「点群データを利用することにより,市販のデジカメで撮影した2時期の写真から法面の変状を把握し、法面の経年変化・崩壊前兆を把握することが可能となること」が,第一段階の実証実験で検証されています。
継続する業務の中では,実証規模を拡大,点群データの取得方法において車載レーザーの利用の検討,3Dデジタルデータの特性を活かした台帳の仕様を検討など,具体的な運用を見据えた試行事例の追加などを行うこととしています。

図6.1 ドローン測量による3D図面を用いた法面崩落予測
出典「ひろしま県民テレビ」

 



法面崩壊の予測における継続する業務の2件目は,定時運行するバスに搭載した通信機能付き小型カメラ(IoTカメラ)が撮影した法面映像のAI画像解析により,法面のクラック及び小規模な落石などの法面崩落の前兆を検出することで、道路管理者が早期に対策を講じられる環境を構築するものです。
実際に運行しているバスにカメラを設置し撮影された映像を基に,ディープラーニングによる画像認識技術を主としたAIを構築し解析させることで,落石,クラック,法尻の堆積土砂について実画像に対する構築したAIの認識率は約7割であったことが第一段階での実証実験で検証されています。
継続する業務の中では,AIによる認識率を更に向上させるため,LiDARによる点群データ及び赤外線カメラによる温度データを取得することとしているほか,第一段階の実証実験では技術的には検出可能であるが未検証であった,コンクリート片,倒木,法面からの湧水などについて検証を行うこととしています。
また,定時運行するバスに限らず,その他の定時走行する交通移動体についても同様の技術展開が可能であることから,協力の得られた事業者と連携し実証実験を行うこととしております。


図6.2 路線バスの車載カメラを用いた法面崩落予測
出典「ひろしま県民テレビ」



 

7 継続実施業務の概要(路面性状の予測)

路面性状の把握における継続する業務の1件目は,市販カメラの車載による路面性状の把握及びポットホール予測するものです。
一般製品として入手可能な機材を利用し,IRI値とひび割れ率の可視化を可能とするなど,路面性状の把握を低廉に行うことができることが,第一段階の実証実験で検証されています。
継続実施する業務の中では,実証規模の拡大を図るとともに,第一段階の実証実験で発生した誤検知を「誤検知の教師データ」として学習させ、ディープラーニングの更新を行うことにより精度の向上を進め,穴ぼこ予測の確立に向けた学習データの収集及び予測モデルの構築を行うこととしています。


図7.1 市販カメラの車載による路面性状の把握及びポットホール予測

路面性状の把握における継続する業務の2件目は,ドライブレコーダーによる路面性状の把握及びポットホール予測するものです。
日常のパトロールを実施する道路巡視車に搭載したドライブレコーダーにより取得した画像をAIに画像解析を行うことで,管理する道路の路面性状を網羅的に把握することが可能であることが,第一段階の実証実験で検証されています。
継続実施する業務の中では,実証規模の拡大を図るとともに,ひび割れ,路面陥没(穴ぼこ)の検知制度の向上や誤検出の除外を進めるとともに蓄積データから劣化進行を時系列でモニタリングし、対象区間の交通量、気象データなどを加味して亀甲状ひび割れから穴ぼこ発生を予測する技術の確立を行うこととしています。

図7.2 ドライブレコーダーによる路面性状の把握及びポットホール予測
 

8 今後のスケジュール

継続実施することが決定した提案については,今後,令和4年2月までを第二段階の実証実験期間として,規模を拡大して実証実験を実施し,データ取得技術及び予測技術の構築を行うこととしております。その後,令和4年度は,本格運用に向けて準備を行い,令和5年からの本格運用を目指しています。
なお,「除雪作業の支援」は,今年度の冬期の実証結果を踏まえ,令和3年度から実証規模拡大を図る予定としています。
 

9 道路整備課の今後のDXの取り組みについて

当課では今回紹介した3つのテーマと平行して,今年度より,「道路の附属物の自己点検技術」をテーマに実証プロジェクトを開始する予定です。
 

10 終わりに

本県では,今年度策定を予定している「広島デジフラ構想」(デジタル技術やデータを活用したインフラマネジメント)の中で,調査・設計・施工から維持管理までのあらゆる段階でAI/IoTなどのデジタル技術を最大限に活用することとしており,「3Dデジタルデータの活用」,「予測保全の導入による維持管理の高度化」,「ドローンやAI等を用いた効率的な施設点検」などの取組を推進することとしています。
今回紹介した取組は,その一環となるものであり,今後とも道路施設の維持管理等において,デジタル技術を有効に活用し,社会情勢の変化に伴う様々な課題に的確に対応してまいります。

 

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