【特集】やったら終わり”ハッカソン”からの卒業


 プランナーとエンジニアが即席で出会い、高い企画力と技術力を競いあう“ハッカソン”。その中でも、2019年までは、全国各地で地方の課題と結び付けたいわゆる「ご当地ハッカソン」が数多く開催され、きらりと光る多くのアイデアを生み出し、さらには地方への関係人口の増加にも一役を買ってきた。

 自治体からみてハッカソンというと、なかなかすぐにはとっつきにくい内容のように思えるが、よく考えるといわゆる“お祭り”に近いものがあり、各関係者との調整や地元民のまきこみ、会場の用意から課題の設定と、実は自治体職員が得意とするところであり、各地方で自治体が主体となったハッカソンやアイデアソンが数多く開催されてきた。
 一方でこれもよくあることで、こういったお祭りやイベントについては、それ自体をやることが目的化してしまい、無事に開催できたらそれで満足!という流れになりがちである。ハッカソンやアイデアソンの本来の目的は、当初に設定した課題をいかに短時間で解決するアイデアを生み出すのか、その端緒を切り開くことであり、開催することが地域の課題解決へのスタートラインに立つことなのだが、これまでの全国で行われてきたハッカソンやアイデアソンの、その後の継続した取組についてのニュースは多く見られない。
 
 ひろしまサンドボックスにおいても、2019年に2つのハッカソンの開催に携わってきた。残念ながら2019年2月に開催した“宮島観光ハッカソン”のその後の動きをキャッチアップすることができていない。一方で、2019年3月に開催した“とびしまハッカソン”では、優勝チームやアイデア賞を受賞したチームが取り組みを継続しているので、ここでご紹介したい。


①レモンの等級をAIで判定するアイデア

 レモンの品質等級を目で判定している作業をAI化することで、作業効率を上げることと品質判定を一定化する。ハッカソンで優勝したこのアイデアは、さらに2019年度に「ひろしまIT融合フォーラム」の研究費支援を獲得し、1年間の研究を経てプロトタイプの完成にまで至った。70%の精度でレモンの等級を自動で選別することが可能となったが、まだまだその精度では実用化が難しいことと、室内の明るさなどの測定環境に大きく影響を受けてしまうため、まだまだ開発途上である。

 そこで、AIの精度向上を目指して、AIデータ分析プラットフォームを構築しているSIGNATEへレモン画像データを提供し、さらに精度の高いAIをコンペティション形式で全国のデータサイエンティストに作ってもらう取り組みを始めるなど、その後の活動も継続している。

  <コンペ詳細>2021年2月1日スタート
  https://signate.jp/competitions/362

また、完成したプロトタイプはハッカソンが開催された地元のカフェに展示されており、実際にレモンの判定に使えることができる。

  <とびしま柑橘カフェ>
  https://tobishima-lemon.jp/retail-store/


重労働である草刈り作業をゲームと掛け合わせて楽しみにかえるアイデア


 果実の生産現場の3大課題としてよく言わるのが、防除、除草、収穫の3作業。自動機による除草剤の散布や自動草刈りロボットなど、様々な方法によってその課題の克服にチャレンジしているものの、広大な平面の耕作地とは違い、狭く斜面にある島の生産現場では機械も入りにくく、また生産量も限られており、島のあちこちに農地が点在しているなど条件が厳しく、まだまだ大規模な自動化・機械化にはたどり着けていない。
 そこでこのハッカソンチームは、いったん発想を転換し、草刈りを楽しみにかえるバーチャルゲームの開発に取り組んでいる。2020年末に実施したクラウドファンディングでは、目標額を集めることに成功し、具体的な開発を進めている。2021年春にはゲームを完成させ、スポーツイベントを開催することを目標としている。もちろん、ゲームをしても現場の草は一本も減ることはないのだが、こういった取組から島の情報を発信し、新たな参画者を増やすことにつなげていくことのほか、いずれは現実世界で行った草刈りをバーチャル世界に反映させて、世界中で草刈り面積などを競うことも考えている。



  <クラウドファンディングのページ>
  https://camp-fire.jp/projects/view/325175


 以上、2つの取組はその進捗度合いやチーム員のそれぞれの熱量に濃淡はあるものの、ハッカソン後にも有志の取組が継続している。

 では「やったら終わり”ハッカソン”からの卒業とは」のタイトルにかえり、継続したこの2つの取組の共通項から、やりっぱなしにならないハッカソンについて考察したい。

 <共通項>
  • チーム員のモチベーションが一定以上あり、さらにリーダー核となる人物のけん引力が強い
  • ハッカソン後にもリアルに集合して課題を話し合うなど、コミュニケーションを継続している
  • SNSなどで取り組みを継続的に公表しており、ハッカソンに関わった全ての関係者から応援されている
 以上の共通項について、当たり前といえることではあるが、なかなかこれが現実には難しい。①や②についてはハッカソンに集まった人たちによるところが大きく、ある意味“運”に作用されてしまう。もちろん、ハッカソンを開催するにあたり事前にそういった素質のある参加者へどれだけ声をかけることができるか、といった努力はできるかもしれないが、ハードルは高いだろう。
 では③についてはどうか。これも①のリーダーが定期的に発信するなどの努力をしているかにもかかわるのではあるが、それ以上にそのまわりの応援者や、リーダーを支えるフォロワーも重要になってくる。TEDでのプレゼンテーション「ムーブメントの起こし方」を思い出した方もいるかもしれない。一人のリーダーがただ突っ走っても、後続はついてこないのだ。
①と②が事前にできる努力であるとすれば、③については事後の努力だろう。さらに、開催した行政サイドがフォロワーとなり、事後のムーブメントを支援することも考えられる。
 
 <ムーブメントの起こし方>
https://www.youtube.com/watch?v=IdULdrNAlNs

 この共通項を意識しつつ、これからのハッカソンの開催や、またまた地域での課題を解決しようとするコンソーシアム(団体)の組成を行う際の参考としてもよいかもしれない。やったら終わり、ではなく、開催する前と後を意識することが地方都市開催のハッカソンやアイデアソンを本当に意味あるものに変えていくだろう。

 最後に、コロナ禍により一か所に密集して行うイベントの開催はしばらく難しいが、オンラインでの開催やバーチャル空間での開催などへのシフトが進みつつある。円滑なコミュニケーションが難しいオンライン開催において、上記の共通項を意識しつつ、ひろしまサンドボックス会員のチャレンジをムーブメントにしていく支援を続けていきたい。

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