Make idea~by new technorogy~地域を越えたハイブリッドアイデアソンの開催


〔参加者全員で〕

 「オープンイノベーション」と耳にするようになってはや10年以上が経過。各自治体がその意味を本当に理解しているのかはさておき,自治体間でしのぎを削って「イノベーションハブ」,「スタートアップエコシステム」,「サーキュラーエコノミー」などと唱えながら様々な取組を進めている。うまく関係者を巻き込み域内外から多様な人材を集め,新たな価値創出に成功した自治体もあれば,実行しているのはセミナーや専門家相談会など,いつもの関係者内で取組がとどまってしまい,“なんちゃって”イノベーションとなっている自治体も散見される。
 
 また昨今のコロナ渦により,特定の場所に同時かつ多人数を集めるイベントの開催が難しくなり,オープンイノベーションを体感する方法であるハッカソンやアイデアソンなどは軒並み中止となるか,ウェブ会議システムを活用したオンライン開催に変更を余儀なくされるなど,その影響は大きい。ハッカソン,アイデアソンのだいご味である様々な参加者による相互補完であったり,セレンディピティ(偶発的出会い)などを実体験することがオンラインでは享受しにくいのが実情である。
 
 このような中,浜松と広島の有志が連携し,地域を超えてオープンイノベーションを目指すチャレンジがスタートした。
 
<発起人①>
fabbit広島駅前 コミュニティーマネージャー 吉田氏 (広島)

 fabbitは国内に23か所,国外に22か所の施設と7,200名の会員を抱える「オープンイノベーション」を全国に推進する企業である。吉田氏はこのfabbit広島駅前のレンタルオフィス兼コワーキングスペースのコミュニティマネージャーを務めており,会員の入退去の対応から会員間のコミュニケーションの仲介まで,幅広く活躍している。ところが,昨今のコロナウイルスの感染拡大によって,コミュニケーションスペースも“密”を避けないといけないことから,リアルでのイベント開催や会員間の交流も十分にできないことを課題と感じていた。

<発起人②>
anosh 取締役 中山氏 (浜松)

 anosh株式会社は浜松市を拠点に,地域の創業者の支援やオープンイノベーションを推進する民間の専門家集団を持つ企業。中山氏は企業の副代表を務めており,浜松市創業スクールのメイン講師を務める。また広島県が実施する「ひろしまサンドボックス」事業においてレモンコンソーシアムの実証実験に参加している。広島,浜松に限らず静岡県や東京都,関東圏の政令指定都市及び,小笠原諸島までと支援地域は広範囲にわたり,地域を超えた農商工連携を促進している。

<発起人③>
レモンコンソーシアム 武田氏 土江氏 (広島)



 両氏は「ひろしまサンドボックス」事業のレモンコンソーシアムにおいて実証事業の中心的な役割をしており,レモンの生産現場のICT化,レモンの高付加価値化にチャレンジしている。実証事業で活用している技術を抱え込むことなく,様々な社会課題解決への横展開を目指し,また,映像配信技術を活用した地域コミュニティーを全国連携していく取り組みなどを考えている。

1 出会いからアイデアソン開催へ


〔fabbit広島駅前 牡蠣保険チーム〕

 4者の思いの一致は必然であった。「ひろしまサンドボックス」の実証事業に参加しているanoshの中山氏が広島の拠点としてfabbit広島駅前のレンタルオフィスを借りたことが始まりであり,コミュニティマネージャーの吉田氏,そして実証事業に参加している武田氏や土江氏と出会うこととなり、4者はコワーキングスペースにおいて,それぞれが持つ思いについて“語り合う”中で,今回の地域を超えたアイデアソンの開催を思いつくこととなる。

2 開催の目的

 吉田氏の思いは、このコロナ渦においていかに会員間のコミュニケーションの質を上げていくのか,そして、中山氏、武田氏および土江氏は、実証技術の横展開,あわせて、浜松,広島という地域を超えた連携によるイノベーションの創出にチャレンジしたいという思いがあった。それぞれの思いは方向が異なっているようで、「新しい価値の創造」という最終ゴールを一緒にしていた。本イベントの開催のしおりには,開催の目的として次のとおり記載されている。

 「多様性を持った多くのメンバーでディスカッションを行い、それまでになかった全く新しいアイデアや特定の課題の解決方法を見つけブレークスルーを起こす。最新の要素技術を取り入れ、独創的で大胆、予想外、ゲームチェンジャーと呼ばれるプロダクトへつなげる。また、参加者どうしの交流から、技術や知識だけでなく、地域間の新たな繋がりを構築する。」

3 オンラインとオフラインのハイブリッド開催

〔fabbit広島駅前 style若手組〕 

〔fabbit広島駅前 広がるランドチーム〕

 今回の企画が立ち上がったのは6月末頃。ちょうど新型コロナウイルスの感染が拡大しており,事前のミーティングでは実際に集まってイベントを打つことは難しいという判断となった。当初の計画では浜松から複数名は広島に集まってもらい,深い交流をしていきたいと考えていたが,県外への移動もできる状況なのかどうか,予測がつかない。

そこで,これまで経験したことがないが以前より構想していた「オフラインとオンラインによるハイブリッドのアイデアソン」にて,それぞれのよい点を最大限失わない形で開催が試行されることとなる。
 浜松からは参加予想は約20名であったため,広島からも20名程度を集めることとなった。“密”を避けるためアイデアソンのチームは最大4名程度までとし、実際に事務局が用意する各会場(fabbit広島駅前など)へ集まっていただき(オフライン),全体の進行や審査会などは散らばって実施するオンラインハイブリッドとなるアイデアが採用されることとなった。


〔浜松市Cotonomaスタジオの様子〕

<アイデアソンのしおりの冒頭には次のとおり記載されている>


4 開催の様子
 午前に始まったアイデアソンには総勢約40名が参加。学生から年配の方まで,まさに老若男女が集まり各チームに分かれ,ニューノーマルをテーマに身近な困りごとを解決するアイデアを議論した。事務局からはNFCなどの新しい活用アイデアなどを紹介し,各チームが未来のアイデアを思いつくヒントを提供した。ただし,基本的には各チームが自由にアイデアを考えるスタイルとしている。

 浜松からは動画配信スタジオ「cotonoma」,Co-startup Space & Community「FUSE」,はままつトライアルオフィス,佐久間若者サミットが参加。スタートアップを力強く支援する浜松市のインキュベーション施設に所属する方々や,わが町ふるさとを振興する若手団体などが多く参加しており,浜松市の勢いを感じるメンバーが揃った。

〔佐久間若者サミットの様子〕

 広島からは学生団体が3チーム、fabbit広島駅前の会員であるスタートアップ企業の方々など2チーム,有志のオンライン混成チームが1チームの合計6チームが参加している。学生は呉高専チームと,学生団体Styleという様々な広島県内の大学が連合して活動しているサークル2チームが参加。fabbit広島駅前からは地域のスタートアップ企業の方々や大手企業の社員さんなど,多様なメンバーが集まった。

〔fabbit広島駅前 チーム3456の様子〕

5 入賞アイデア

(1位)はままつトライアルオフィス レインボウGO
 バーやスタンドにおいてコロナを契機に様々なコミュニケーション上の問題が顕著になってきている。そこで,アプリとBluetooth技術を使い,一括して全ての課題を解決できるソリューションを提案。バーでの会計や注文,隣の席へのおごりから,従業員の勤務時間管理まであらゆる課題をスマートフォン1台で対応できる。


(2位)浜松動画配信スタジオ cotonoma (浜松)
 釣り人のための総合プラットフォームを提案。釣り場に設置した看板にQRコードを付けて,専用ウェブサイトに誘導。その付近でどのような釣果があったのか記録,共有できる仕組みから,釣り人同士の交流も支援。いすれは釣り人必須の“せこいくらい釣り情報が集まる”総合プラットフォームとして進化させていく。


(3位)style若手組 (広島)
 身近にある課題をNFCで一元化することによって克服するアイデアを発表。事例として健康保険証や診察券,お薬手帳などの情報がそれぞればらばらに存在していることをテーマに,情報を一元化することによってさまざまなステークホルダーの利益になることを発表。

 なお、発表の様子は後日,以下のサイトに掲載される予定。発表内容もすべてオープンにするとのこと。ぜひ動画をご覧いただきたいし,アイデアの実現化に向けてさらに仲間を集めていくとのこと。順位はいったん決定はしたものの,どのアイデアも実際にこれから開発に向けてブラッシュアップをしていく予定である。
 
<動画の掲載サイトはこちら>
https://ka-with.fun

6 最後に

〔事務局,fabbit広島駅前会員と〕
 オープンイノベーションとは何か,地域を越えた連携とは何か、今回の取組から学べることは何なのだろう。この度のイベントのスローガンにそのヒントがある。

「地域資源×あなたらしさ視点×IoT/AI、新たなサプライズにつなげる第一歩。チャンス!はアイデアと行動の向こう側!」

 新型コロナウイルスの感染拡大でできなくなったことは多い。以前のように100人,200人を集めたイベントを開催していくことはもう少し先の未来の話になるかもしれない。そのような中でも,新しいことにチャレンジすることを忘れず,横の仲間を探し,地域を越えた価値創造に果敢に挑むこと,その第一歩を恐れずに“行動”していくことがニューノーマルを作り上げていくかもしれない。その可能性を参加者全員で感じることができるイベントであった。
 このような動きが全国各地で生まれてくると,真のオープンイノベーションの達成に一歩近づくことができるのではないだろうか。本チームはこのアイデアソンで終わることなく、次回の企画を始めている。より社会実装に近づけるために技術的な課題を克服し、ビジネスやマーケティングの観点から議論をさらに深めていく予定である。次回についてもぜひ本稿で取り上げたい。

※参考
<fabbit広島駅前ホームページ>
https://fabbit.co.jp/facility/hiroshima-ekimae/
<学生団体style>
https://www.facebook.com/style.hiroshima
<Co-startupスペース>
https://www.fu-se.jp/
<浜松オンライン配信スタジオcotonoma>
https://www.facebook.com/cotonoma2020/
<佐久間若者サミット(リンク先はニュース記事)>
https://www.at-s.com/news/article/topics/shizuoka/deepop/702360.html

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